研究課題/領域番号 |
23730066
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
嶋矢 貴之 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80359869)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 刑事法 / 立法 |
研究概要 |
本研究は、この10年ほどの刑事立法(特に外国公務員贈賄罪、児童ポルノ処罰法、危険運転致死傷等交通犯罪立法、ストーカー規制法、人身売買罪等)を対象として、その立法ないし改正によって生じた問題点(=「刑事立法問題」)を、横断的に、解釈論の見地から検証し、それら問題点につき、地方条例や諸外国の立法問題と比較対照し、それらの総合のうえで、刑事立法の際に考慮すべき要素や生じる問題点の類型化・一般化を行うことにより、刑事立法学に関する序論的基礎研究を行おうとするものである。 上記規定のうち、新規立法である不正指令電磁的記録に関する罪、人身売買等に関する移動の自由に関する罪について、立法理由、立法の際の議論、現在の適用状況、裁判例について、網羅的な資料収集、情報収集を行った。前者については、その規定文言について、理系コンピュータ専門家から適用限界の不明確性が指摘されていることが明らかになった。また、後者については、国際条約に基づいて複数の罪が新規立法されたが、その適用には、相当の濃淡があり、必要性・合理性につき検討を行う余地があることが明らかとなった。後掲のとおり、以上については、平成24年度中に、それらの研究成果を踏まえた注釈書の分担執筆を行う予定である。 また、危険運転致死傷罪については、既存の研究データをアップデートするとともに、大阪刑事実務研究会に出席し、裁判官による報告を聞き、その実務的運用の状況につき知見を得た。立法直後の状況と比較して、実務的には、適用につき、一定の安定を見ているというのが印象であった。その意味で、「刑事立法問題」については、それが生じたとしても、運用の努力(収集証拠の選別、法適用・解釈基準の柔軟化)により鎮静化されるという性質を有する。その「鎮静化」の妥当性について検討することも新たな課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のとおり、新規立法のうち、人身売買等の罪、不正指令電磁的記録に関する罪、危険運転致傷罪に関しては、相当程度、所期の研究がすすめられた。また、外国公務員贈賄罪、児童ポルノ処罰規制についても一定の研究蓄積があり、そのアップデートを行うことができた。ただし、その余の新規立法犯罪については、さらなる資料・情報の収集が必要である。また、一部、適用がほぼ見られず、運用状況の検証が困難な犯罪があり、それをどのような観点から本研究の中で分析を加えるかについても、次年度以降の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
分析対象を広げ、地方での条例や外国での立法・法改正、法適用・運用を参考にして、類似の「刑事立法問題状況」が生じていないかの調査・検証を行う。「刑事立法問題」の国内的・国際的な普遍性を明らかにする試みである。平成23年度と同様の作業を各犯罪について繰り返した上で、「刑事立法問題」に見いだされる共通項、固有の問題を取り出すという作業を行う。具体的には、条例・外国法についても、基本的には前年度と同様の手順で、1法令・条例の適用の状況-網羅的横断的裁判例研究、2運用状況の調査・検討の作業を繰り返す。条例については、条例処罰をめぐる裁判例(淫行規制や自販機規制)分析と実情調査を通じて、同じく「刑事立法問題」の抽出と解釈論的整理を行う。外国法については、外国、特にドイツでの裁判例での争点分析と調査等を行う。 加えて、本年度はコンメンタールの執筆を予定しており、そこにおいては、新規立法である不正指令電磁的記録に関する罪、人身売買等に関する移動の自由に関する罪についての執筆を、本研究成果を踏まえて行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2000年代以降の刑事立法(特に外国公務員贈賄罪、児童ポルノ規制、危険運転致死傷等交通犯罪立法、ストーカー規制、人身売買罪等)の法適用・運用・改正状況の分析と検証を行い、近時の刑事立法について、横断的に、その運用上・適用上生じた問題点を実証的に明らかにする。この各論的分析から出発して、そこで生じた問題群を整理し、類型化・抽象的命題の導出に着手する。具体的には、1法令・条例の適用の状況-網羅的横断的裁判例研究、2運用状況の調査・検討の作業を、和洋書の購入、出張による研究会出席、出張インタビューにより情報を収集して、コンピュータ、および資料整理補助スタッフを用いて整理・分析することにより遂行する。以上の諸費用に研究費を用いる。次年度使用額については、なお調査不十分な一部犯罪についての資料収集のための費用として用いる。
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