研究課題/領域番号 |
23730070
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研究機関 | 白鴎大学 |
研究代表者 |
平山 真理 白鴎大学, 法学部, 准教授 (20406234)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 裁判員裁判 / 性犯罪 / 量刑 / 性犯罪対策 / 性犯罪者処遇 |
研究概要 |
本研究では、2009年5月21日より導入された裁判員制度について、その影響が最も顕著に見られている、性犯罪事件を罪名に含む裁判員裁判(以下性犯罪裁判員裁判)に注目し、裁判における課題や、性犯罪の量刑や処遇、また対策に与える影響について、裁判員の存在やその意見がどのような影響を与えているのかを考察することを目的としている。これにはまず、実際に性犯罪裁判員裁判を傍聴し、問題点を考察することが重要となるが、本年度は各地裁で性犯罪裁判員裁判を傍聴することに焦点を当てた。また、そこにおける課題をより深く検討するために、これらの性犯罪裁判員裁判の弁護を受任した弁護士等にインタビューを行った。 また、諸外国の刑事司法制度については、12月にノルウェー大使館主催のシンポジウムに参加し、犯罪報道や市民感覚が刑事司法制度にどのような影響を与えているのかについて学ぶ機会を得た。この知見は次年度に行う海外調査に活かしたい。 また、研究成果の外部への発表については、6月にアメリカ法社会学会、8月に国際犯罪学会第16回大会、9月に第2回東アジア法社会学会、と3回の国際学会において計4件の学会報告を行うことができた。そこでは、国内外の研究者から、わが国の性犯罪裁判員裁判の課題について様々なコメントを得ることができたので、今後の研究の指針としたい。 これらの研究成果については、論文3本(国内雑誌掲載1本、海外雑誌掲載1本、海外書籍掲載1本)としてまとめ、これらは2012年度中に公刊される予定である。 更に、研究成果の社会への発信については、裁判員制度や司法制度をテーマにした著作を多く有する作家を講師として一般公開の研究会を行い、裁判員制度の課題について市民や学生にも考えてもらう機会を設けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
裁判員裁判で性犯罪事件を審理する際の諸課題について考察するという本研究の目的に沿い、実際の性犯罪裁判員裁判の傍聴、弁護士へのインタビューについて効率的に進めることができた。また、裁判員裁判ではないが被害者参加を伴った性犯罪事件の裁判を傍聴することで、刑事手続における性犯罪被害者の配慮についても考察できた。 また、これらの研究成果の外部への発表についても、国際学会における報告4件、論文3本(国内雑誌1本、海外雑誌1本、海外書籍1本)を執筆することができた。これらは現時点ではまだ公刊されていないため、この研究実績報告書には記載できないが、2102年度中に公刊予定である。わが国の裁判員制度は、国民の司法参加を採用している多くの国の制度と比較しても異なる点が多くあり、海外からの注目も大きい。また、とくに性犯罪事件については、裁判員制度の多くの課題が集中することが国内でも指摘されている。従って外部への研究成果報告については次年度は更に力を入れて行い、そこで得られる議論を本研究に活かしたい。 研究成果の社会への発信という点については、一般公開の研究会を一度開催した。研究成果の社会への還元という観点からも同様の機会をより多く持ちたかったが、招聘したいと考える専門家のスケジュール調整の関係で、1回に留まった。次年度は同様の研究会を複数回開催できるようにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
裁判員裁判で性犯罪を審理する際の諸課題について実際の裁判の傍聴や弁護士等へのインタビューを今後も引き続き行いたい。この過程で、実際に性犯罪裁判員裁判の弁護を受任した弁護士や、また被害者参加人がいる場合はその弁護士等にインタビューを行う予定である。 また、現在一部の地方自治体において、刑事施設から出所後の性犯罪者に対し、その居住地情報等の届出義務を課す条例等が議論され、大阪府では既にこの条例が成立している。性犯罪者を地域社会でどう監視し、再犯防止を達成するかは重要な問題であるが、これまでは2005年6月より開始されていた、警察による「居住地確認制度」しかなかった。この問題をめぐる議論が進み、実際に条例がとなった背景には、裁判員制度により性犯罪事件の量刑が厳罰化に転じていることや、刑事政策に対する国民の関心が高まったことも影響していると考えられる。従って、次年度は大阪府のこの条例が再犯防止に果たす現実的機能の検討や、プライヴァシーへの介入という副作用についても検討を行いたいと考えている。 性犯罪裁判員裁判の大きな課題の一つとして、被害者への負担が指摘されている。従って次年度は性犯罪被害者等へのインタビューを行い、裁判員裁判における被害者の負担とその対策についても明らかにしていきたい。 また、陪審制度や参審制度を有する諸外国を調査し、刑事裁判を実際に傍聴することで、国民が性犯罪事件の審理に参加する際の諸課題を検討し、そこで得られる知見をもとにわが国の性犯罪裁判員裁判の問題を検討したい。 更に、今後は本研究の課題の一つである、わが国における性犯罪処遇の展望についても考察を進める。具体的には、刑事施設内や保護観察時の性犯罪処遇についてその現状と課題を検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度については、海外調査として、国民の裁判への参加制度を有する国の刑事裁判を実際に調査する計画である。具体的にはアメリカ(陪審制度)と参審員制度を有するヨーロッパ諸国(イタリアとフィンランドを予定)について、とくに性犯罪事件が審理される際の諸課題について調査する予定である。 ところで、アメリカの陪審制度においては、原則として被告人に陪審裁判か裁判官による裁判官かを選択できる権利を認めていることが特徴である。ところが、性犯罪事件でとくに性犯罪者の民事拘禁の可否があわせて審理される際には、被告人が陪審裁判ではなく裁判官裁判を選択する際に、検察官の同意を必要とする法改正が一部の州(例えばマサチューセッツ州)で進められており、次年度は、上記アメリカ調査時にこの動向についても詳しく調査したい。 また、国内調査として、H23年度においても進めてきた、わが国における性犯罪裁判員裁判の傍聴と、弁護人等へのインタビューを引き続き行う予定である。とくに、2010年10月に大分地裁で開かれた強姦致傷事件の裁判員裁判においては、裁判員裁判を回避したい被害者が当初強姦事件での立件を希望し、いったんは強姦事件として立件されたものの、強姦致傷で送検され、裁判員裁判となった。次年度はこの裁判の弁護人と被害者参加人弁護士へのインタビューを行い、裁判員裁判が被害者に与える負担の問題を検討したい。この問題については、性犯罪被害支援団体やこの問題に取り組む弁護士等へのインタビューも予定している。 さらに、次年度は研究成果の外部への発表にもさらに力を入れる予定である。2012年10月に予定されている第39回日本犯罪社会学会では、性犯罪裁判員裁判の課題について議論するラウンドテーブルをオーガナイズすることを予定している。 以上のように、国内外出張費、専門的知識の提供に対する謝金や研究会経費等を使用する計画である。
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