研究課題/領域番号 |
23730070
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研究機関 | 白鴎大学 |
研究代表者 |
平山 真理 白鴎大学, 法学部, 准教授 (20406234)
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キーワード | 裁判員裁判 / 性犯罪 / 被害者 / 量刑 / 処遇 / 性犯罪者対策 / メーガン法 |
研究概要 |
性犯罪を裁判員で審理する際(以下性犯罪裁判員裁判)の課題を考察するために、性犯罪事件を中心に裁判員裁判の傍聴を行った。また、比較のために、裁判官のみで審理される性犯罪事件の裁判傍聴も行った。 さらに、性犯罪裁判員裁判を担当した弁護士(被告人の弁護人、被害者参加人の代理人)、被害者支援専門家、加害者支援専門家、報道関係者にインタビューを行い、性犯罪を裁判員裁判の対象とすることの意義と問題点を考察した。 海外調査については、英国調査を行った。性犯罪前歴者を地域でサポートし、再犯防止を目指す活動を行う民間組織(保護観察所と連携して行われている)「Circle UK」を訪問し、その活動の実態と再犯防止効果について聴きとり調査を行った。また、英国の保護観察所、刑務所、警察等が連携して性犯罪者の再犯防止に取り組む、多機関社会保護規定(Multi-Agency Public Protection Arrangements, MAPPA)について調査を行った。更に勅選弁護士より英国の陪審制度の課題について聞き取り調査を行った。 当該年度は、研究成果を社会に向けて発表、還元することにとくに力を入れた。研究代表者が研究成果を論文や学会報告として発表するだけでなく、専門的知識を有する者を招聘し、一般公開した講演会を4回行った。これらは大井琢氏(沖縄弁護士会)「性犯罪事件の弁護」(2012年5月)、Lee Tucker氏(アリゾナ州弁護士)「陪審制度と裁判員制度」(2012年6月)、前野育三氏(兵庫県弁護士会)「性犯罪事件の弁護)(2012年10月)、泉悦子氏(映画監督)「裁判員時代のジェンダー教育」(2013年3月)である。また小橋るり氏(大阪弁護士会)、斉藤章佳氏(精神保健福祉士)をパネリストとし、「性犯罪裁判員裁判の課題」として第39回犯罪社会学会大会のミニシンポジウムを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は前年度に引き続き、性犯罪事件を中心に、裁判員裁判の傍聴を効率的に行うことができ、また弁護士、被害者支援、加害者支援のそれぞれの専門家、報道関係者にインタビューを行うこともできた。 一方、海外調査については英国調査のみしか実施することができず、研究計画の中に記載したその他の国の陪審、参審制度についての調査については次年度に延期することとなった。 しかしながら、当該年度はとくに、本課題研究によって得られた知見を社会に還元することについて効果的に達成できたと考える。本研究成果についての論文を5本、学会報告も4本発表することができた。とくに、論文については海外の雑誌(韓国)、書籍(英国)に掲載することができた。裁判員制度という、わが国独自の制度の詳細と課題についての論稿が海外で出版されたことの意義は大きいと期待する。また、研究成果の社会的還元という観点からは、本研究課題に関わる専門的知識を有する者をゲストスピーカーとして招聘し、一般に向けて公開した講演会を合計4回開催した。講演会参加者と参加者には講演会そのものについてだけでなく、裁判員制度についての各自の見解も問うアンケートを実施したことで、市民は刑事裁判に何を期待しているかの一端を知ることができた。これらは本課題研究をまとめるうえで効果的に活用したいと考える。 また、一般公開ではないが、学会のミニシンポジウムとして「性犯罪裁判員裁判の課題」を企画、開催できたことの意義も大きいと考える。このミニシンポジウムでは、被害者、加害者、裁判員、法曹、とそれぞれの観点からの問題を広く議論することができ、会場の研究者、実務家との間で行われた活発な議論を、本課題研究をまとめるうえでの指針の一つにしたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本課題研究の最終年度であることから、研究計画のうち未実施のものを行うとともに、とくに研究の取りまとめに力を入れる予定である。 まだ実施していない国についての海外調査を行いたい。具体的にはアメリカ調査とヨーロッパ(イタリア、北欧を予定)における参審員制度の調査を行う予定である。とくにアメリカにおいては陪審員の選任手続(Voir Dire)の問題に焦点をあて、性犯罪事件を受任する弁護士が陪審員の属性について何を重視するのか、について弁護士に聞き取り調査を行う予定である。 また、性犯罪裁判員裁判が性犯罪者対策にどのような影響を与えるかについて、とくにアメリカの性犯罪者の情報登録とその情報の公開を定めた、通称メーガン法に焦点を当てて考察したい。メーガン法は1994年以降アメリカの各州で成立、施行されてきたが、施行後20年が近づこうとする現時点でどのような効果を挙げ、またどのような問題点が生じているかを考察したい。 わが国の裁判員制度は実施から5年目に入ることになるが、今後どのような点をみなおすべきかについて具体的な提言を行うことを目指したいと考える。 ところで、本課題研究を開始した当初には施行されていなかったが、「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」が2012年10月1日から施行され、13歳未満の子どもに対して性犯罪加害を与えた性犯罪者が大阪府に居住する場合、居住地情報を大阪府に届け出ることが求められることとなった。これらの背景には裁判員制度導入により市民の犯罪対策への関心が高まったことも一因と考えられる。性犯罪裁判員裁判においては量刑への影響が色濃く見られることはこれまで検討してきたが、犯罪対策への関心の高まりが具体的な条例として実現したことに注目し、今後の研究として発展させて行きたいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度についてはまず、まだ実施していない国についての海外調査を行う予定である。また次年度は最終年度であることから、本研究成果についての学会報告を3回計画している(2013年5月日本法社会学会、2013年6月Annual Meeting of Law and Society Assocaition、2013年11月American Society of Criminology)。 これらに関わる出張経費、学会参加費、インタビュー謝金、また研究を取りまとめ報告書を作成するうえでの印刷費に研究費を使用する計画である。
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