今年度は海外調査として、ドイツの参審員制度、そしてベルギーの陪審制度の調査を行った。ドイツでは性犯罪事件を含む計7件の参審裁判を傍聴し、裁判員制度と共通点の多い参審制度が職権主義構造のもとで実施されていることの意義と課題を考察した。また、ベルギーでは1件の殺人事件の陪審裁判を冒頭手続から評決の言い渡しまで通して傍聴し、担当裁判官らに同国の陪審制度の課題について質問をする機会を得た。ベルギーもまた職権構造のもとで陪審制度と被害者参加制度を採用しており、そこにおける意義と課題を考察した。本研究ではアメリカ、英国、ドイツ、ベルギーの市民参加型刑事裁判について調査し、これらの国の制度をわが国の裁判員制度と比較し、とくに性犯罪事件が審理される際の課題に焦点をあてた。本研究の研究実施計画においては陪審制度や参審制度を有する国々の裁判における課題を調査することを記載したが、その計画に沿った研究を遂行することができた。 また本年度は最終年度であったことから、研究成果を国際学会(第6回アジア犯罪学会とアメリカ犯罪学会)において報告する機会を二度得た。とくに本年度はこれらの学会において、研究代表者が報告者としてだけでなくオーガナイザーとなってセッションを企画し、アメリカの刑事法研究者を指定討論者として迎え、フロアとの討論を交えて性犯罪事件を市民参加型裁判で審理する際の課題について比較法的な議論を行うことができた。これらの研究は2本の論文と1冊の著書として発表することができた。 また本年度は東北少年院と青葉女子学園を訪問し、非行少年の処遇や、性犯罪や虐待等の被害性と加害の関係について説明を受ける機会を得た。ところで本研究では研究成果の社会還元を重視し、公開講演会を継続して行ってきたが、今年度も裁判員制度を推進する市民団体「裁判員ACT」から講師を招き、学生や市民を対象にした講演会を開催した。
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