研究課題/領域番号 |
23730072
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
甘利 航司 國學院大學, 法学部, 准教授 (00456295)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 刑事制裁 |
研究概要 |
本年度は、電子監視に関する基礎的な研究を行った。具体的には、英語で書かれているプロベーション・パロールについての本・論文を集め、そして、ドイツ語で書かれている刑罰論についての本・論文を集めて検討した。ただ、英語圏の文献の入手については、日本国内で集めるには限界があると考え、カナダのマギル大学の図書館(中央図書館、ロースクール)にて文献収集を行った(2011年6月)。 以上のことによって、電子監視についての正確な情報を得ることができた。特に、北米などでは、保護観察官等の教育のための、いわば「プロベーション・パロールの教科書」が非常に多く出版されており、それらを読み進めていくと、電子監視が今現在の社会内処遇上では重要な役割を負わされているということを知ることができた。ところが、同時に分かったのは、19世紀後半のプロベーションの書籍によれば、プロベーション・オフィサーはソーシャル・ワーカーであるとされており、現在の電子監視による保護観察というのは、本来の趣旨からすれば相当逸脱しているという問題である(だからこそ、現在、一部の保護観察官が電子監視に対して強い批判をしているのである)。また、ドイツの刑罰論の研究では、当初の予想とは異なり、ドイツでも電子監視について肯定的な意見が強いということ、更には性犯罪者に対する電子監視の動きが出てきているということが分かった。 海外での調査であるが、上述のようにカナダ東部での調査を行うことができた。そのうえ、2012年2月には、フランス南部での実態調査に加わることができた。これは、電子監視に特化した調査ではなかったが、フランスの刑事司法の特徴とそこでの電子監視の位置付けを理解することができ、また、実際にGPSによる監視を実施する現場を訪問することができた。そこでは、対象者の居場所をどのように探知しているのかを目のあたりにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は基礎的な研究を行うことを予定していた。そのため、多くの文献を集めることに主眼があった。そして、実際に多くの文献を集めることができたのは事実であるが、電子監視についての文献は非常に多く、社会学的な視点から書かれているものを含めると文字通り非常に膨大となる。そして、研究分野として非常に新しいということもあり、常に、斬新な議論にあふれているという感想を得ている。ただ、それでも、何とか一年間それらの文献を研究してみたところ、原則的には、電子監視を「処遇の道具」として位置づける見解と「監視の手段」として位置づける見解があるということが分かった。そして、この両者は、完全に対立するものと考えられているわけではない。 さて、この監視的側面についての議論はとても興味深いのであるが、この議論は、電子監視が憲法上許容されるかという問題につながる。そして、提示されているのは、家庭内で刑罰を執行することの問題、プライバシーの侵害や不合理な捜索・押収といえるのではないかという問題、人格権の侵害、住居の不可侵性への抵触、行動の自由の侵害といった問題である。これらは、非常に重要な指摘だと思われるが、これについて、積極的に憲法違反である旨述べる見解も、また、積極的に憲法上問題ないと述べる見解にも接することができなかった。つまり、研究を進めてみて、憲法上の問題については、更なる議論の展開が必要であるということが分かった。これは、刑罰論を含めた、文字通り、より基礎的な・基本的な研究が必要であるということだと考えられる。 なお、海外調査は、カナダとフランスを行うことができおり、順調に実施できている。但し、北欧での調査はまでできておらず、平成24年度での持ち越しの課題である。
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今後の研究の推進方策 |
上述の「現在までの達成度」にて示したように基礎的な研究は、なお継続する必要がある。特に刑罰論を含めた骨の折れる研究は継続するつもりである。そして、後述する、達成業績である共著の書籍(の担当部分の論文)を書いていた際に気付いたのであるが、諸外国の電子監視の比較をする際に非常に問題となるのは、国ごとにきわめてバリエーションのある「手続き規定」の存在である。そもそも、刑事手続きはどの国にも特色があるし、その中で、対象者が電子監視に適しているのかという判断をどのように・どの段階ででするのかは、それこそバリエーションがありすぎる。これらには、いくつかのパターンがあるのだろうが、その分類をするために、各国の手続き規定を意識した研究を行っていく必要があると思われる。また、手続き規定は、政治的な背景を有していることがある。電子監視についても、そのような政治的背景と強い関連性がある。このことも意識して研究を進める必要がある。 諸外国での実態調査であるが、平成23年度は、カナダとフランスでの調査しか行えていない。そして、当初の予定では北欧(特にスウェーデン)での調査を行うつもりであった。北欧は、電子監視の実施が肯定的な評価を与えられている地域である。そのため、是非とも調査が必要なのであるが、おそらく2012年11月にはスウェーデンでの調査ができると考えられる。そして、スウェーデンの調査が終了したのちに、アメリカ・イギリスといった電子監視の強力な推進国(他方で強い批判を浴びることもある国といえる。)の調査を行うつもりである。 そして、海外調査の締めくくりとして、デンマーク、オランダといった電子監視の後進国の調査を行い、他国の電子監視導入の成功例・失敗例をふまえてどのような実施をしているのかを調査する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の「今後の研究の推進方策」で述べたように、文献による基礎的な研究は継続する必要がある。英語圏では、毎年多くの電子監視に関する書籍・論文が公刊されており、それらを随時チェックする必要がある。やはり、北米とオーストラリア・ニュージーランドの文献は分かりやすく、かつ、興味深い議論を投げかけるものが多いため、非常に参考になる。 日本の刑法典(及び刑法学)は、ドイツの影響を強く受けている。ドイツでは、ギーゼンでの実施が有名であるが、それが全国規模で進む可能性もある。また、スイスやオーストリアにも近年動きが出てきており、これらドイツ語圏についての文献上の調査も必要である。さて、ここ数年ドイツでは、電子監視についての博士論文は出ていないが、他方で保安監置の拡大があり、それを論じた博士論文はここ数年で多く公刊されている。保安監置は、対象者の危険性ゆえに、刑罰としてではなく自由を拘束するということを行うものであるが、これは、危険性ゆえに対象者を監視するという電子監視とほとんど同じ問題意識である。そのため、さらに、ドイツのこれらの動きを文献上で追っていくことは必要だと思われる。結局、英語圏とドイツ語圏の文献調査のために、平成23年度と同額の書籍等の費用がかかると思われる。 そして、文献での調査を肉付けるものとしての海外での実態調査である。すでにカナダとフランスでの調査を行ったが、これらの地域の検討を継続するとともに、北欧での調査そしてアメリカ・イギリスでの調査を予定している。 平成23年度のかかった支出を考えると、電子辞書やボイスレコーダーそして書籍・雑誌等で60万円弱であり、旅費で同様に60万円弱であるため、平成24年度もおそらく同様の金額となると考えられる。
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