研究課題/領域番号 |
23730072
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
甘利 航司 國學院大學, 法学部, 准教授 (00456295)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
平成24年度においては、平成23年度と同様に多くの文献を読むことができ、文献収集・文献精読という点では、非常に充実していた。 そして、平成24年度においては、電子監視実施国の模範例とされているスウェーデンにて2回の調査することができた。まず、1回目であるが、9月にスウェーデンの刑事施設などの調査をするグループの調査に加えて頂くことができた。そして、そこでは、犯罪をした人に対してどのような社会復帰のための政策を実施しているのかということに触れるとともに、電子監視を現に実施している開放型刑務所と保護観察所を訪問し、現在のスウェーデンの実施状況を調査することができた。そして、2回目は、11月にスウェーデンで開催された、ヨーロッパ保護観察協議会(CEP)主催の電子監視についてのカンファレンス(学会)に出席することができた。これは、欧米の電子監視使用の具体例や直面している問題点に接することができた。また、予想もしていなかったのだが、すでに実施している国の保護観察官から電子監視のメリット・デメリットを体系的なご教授頂くとともに、非常に詳細な内部規範についてもご教授頂くことができた。 以上のような調査を踏まるとともに、海外の文献の精読を組み合わせて、電子監視の問題点を完全に欧米の視点で書く論文を出すことができた(「『電子監視(Electronic Monitoring)』研究序説」国学院法学50巻4号=国学院大学法学部創立40周年記念号に所収)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非常に順調に研究が進んでいる。初年度で基礎的な研究を行うことができ、電子監視を含む中間的刑罰と社会内刑罰について、「中間的刑罰・社会内刑罰」と題した論文を公刊することができた(刑事立法研究会編『非拘禁的措置の展開と課題』〔現代人文社、2012年〕所収)。そして、電子監視の問題点についてあつかった論文「電子監視による保護観察?」を公刊することができた(同書所収)。そして二年目(平成24年度)で電子監視導入国の中で最も評価の高いスウェーデンを2回も訪問することができた。そして、実は、理想的とされていた実施国の中でも多くの問題を抱えていることが判明した。また、2回目の訪問は、スウェーデンで開催された学会への参加であるが、ここではスウェーデンの状況はもちろんのこと、ドイツ・イギリス・オーストラリア・アメリカ・ドイツ・韓国・サウジアラビアといった国での電子監視の実情を知ることができた。また、同学会においては、電子監視を実施している企業の方々もきており、具体的な実施の方法について教えて頂くことができた。そして、実は、諸外国でも電子監視は多くの問題を含んでおり、例えばコストの問題や実施する側と実施される側との信頼関係の欠如という問題があることが分かった。このような問題点を、所属する大学の紀要に「『電子監視(Electronic Monitoring)』研究序説」と題する論考を載せることができた(国学院法学50巻4号〔2013年〕所収)。付言すると、この論文は、学会での保護観察官らに対するインタビューを前提にして、そこでの議論を補強する文献を探して引用していくというものであり、伝統的な論文とは異なるものである。このような実態調査と文献精読が完全にリンクした論文を公刊することができ、現在までの研究の達成度は非常に順調である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたとおり、これまでの研究は非常に順調である。実態調査としては、カナダ・フランス・スウェーデンを行うことができてきている。そして、今後の研究の推進方策は、イギリスとドイツでの実態調査に向けていくつもりである。まず、前者であるが、ヨーロッパ最初の導入国であり、かつ、今現在、ヨーロッパでもっとも多い実施数を誇る。そして、非常に興味深いのは、以上のような現状にもかかわらず、現場の職員の反発が非常に強い。このあたりの調査を今年度に行いたいと考えている。 そして、後者のドイツである。2012年のスウェーデンで行われた学会に参加している際に、ドイツの裁判官の報告に接し、また、あとで個人的に話をしたところ、ドイツでは電子監視についてポジティブな評価が与えられているとのことであった。日本の刑法の体系・規定はドイツからの輸入物でもあり、そのようなことも含め、ドイツの議論を詳細に学ぶ必要がある。 更にドイツでは、近年、性犯罪者に対する拘禁後の電子監視を導入した。この性犯罪者に対する電子監視は日本でも議論になっているため、検討に値すると思われる。特に、このような人権制約性の高い制度が、何故ドイツで導入できたのかは、日本で全く紹介されておらず、研究する価値が極めて高いと考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度(平成25年度)は、今まで同様に文献の検討と実態調査を組み合わせるつもりである。もともと、どちらかに比重が重たくなるのではなく、両者を均等にする必要があると考えていた。というのも、文献は、ある意味で正確な情報であるが、その議論を支えるバックグランドが見えにくくなり、また実態調査は、迫真に迫る(視覚的)情報ではあるが、情緒的な情報に過ぎない場合があるからである。そのため、両者が合わさって、よい研究ができるということである。来年度も、できるだけ両者に配慮して研究を進めていきたいと考えている。 以上の理由で、文献の検討と実態調査の割合は―実態調査に金銭的負担がかかるので、それに配慮して―金額的には2対3ぐらいとなると予想している。
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