研究課題/領域番号 |
23730075
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 講師 (60586189)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 薬物政策 / ドラッグ・コート / ハーム・リダクション / 治療的司法 / 刑事政策 / 犯罪学 |
研究概要 |
【研究目的】 法的に薬物を規制することで、国際的な薬物政策の主導をとってきたアメリカは、「薬物との戦い(War on Drugs)」をやめると宣言し、今後の薬物政策の在り方が注目されていた。アメリカでは、薬物専門の裁判所であるドラッグ・コートが存在し、司法・医療・福祉のつながりが重視されている。ドラッグ・コート政策の意義としては、伝統的な刑事司法では、薬物依存症という薬物犯罪の原因となっている社会低問題の解決にはつながらず、むしろ社会から隔離をもたらしているという反省を活かし、社会的資源である治療共同体や自助グループと協働で社会的問題の解決に司法が関わることであった。日本では、薬物乱用防止五か年戦略が1998年に策定されて以来、現在(現在は、第三次薬物乱用防止五か年戦略)にかけて国家的規模として薬物政策が行われている。しかし、いずれの戦略においても、徹底した取締りの強化が行われたが、薬物依存症をケアするという姿勢は行われてこなかった。 上記の問題関心の中、(1)社会的資源となっている自助グループなどの国内外の調査を行うこと、(2)1989年から開始されているドラッグ・コート制度を調査するとともに、(3)国際的なハーム・リダクション政策との関係で社会資源の役割と諸問題について検討し、日本の薬物政策の在り方を検討するということであった。【平成23年度の研究成果】 そこで、本研究では、アメリカがこれまで行ってきたドラッグ・コート政策を調査するとともに、日本におけるハーム・リダクションの在り方について研究することが目的であった。初年度である23年度は、全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、法曹三者が果たす役割およびドラッグ・コートに参加するソーシャル・ワーカーなどの実務家が果たす役割について調査を行った。さらに、それらの調査を踏まえ、国際犯罪学会や日本犯罪社会学会で研究成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特色は、ドラッグ・コート政策と社会的資源の誕生と発展を調査すること、およびドラッグ・コート政策と治療的司法の関係を調査すること、さらに、法曹関係者とドラッグ・コートを取り巻くワーカーたちの役割の変化について調査を行うことを国外における計画として予定していた。これらについては、平成23年度の主な活動としては、7月に全米ドラッグ・コート専門家会議(National Association Drug Court Professionals)に参加し、調査を行った。会議では、午前・午後ともに同時に10個ほどのセッションが同時に行われており、4日間をかけて様々なテーマで報告と議論が行われていた。この専門家会議そのものが、全米各地で活躍している実務家たちが各地のドラッグ・コートの特徴や事例を紹介し、議論を行うことが主目的として行われていた。とくに、現在の日本における刑の一部執行猶予の議論との関連で興味深かったのは、「効果的な試験観察の運用について」というセッションであった。薬物依存症の回復はトライ・アンド・エラーの繰り返しであるので、一度や二度の再使用が確認されても、すぐに刑事罰を科すのではなく、引き続き治療プログラムを行うという点であった。社会防衛のために刑罰として薬物プログラムを重視するのか、本人の回復を重視するのかで対応が大きく異なると思われる。このように、制度を支える根本的な理念についての調査は行われたが、こういった示唆を踏まえ、それらドラッグ・コート制度を支える土台となっている社会的資源のあり方についての調査は不十分なままであるので、引き続き調査を行う必要がある。 さらに、日本国内の調査として、京都・三重・沖縄ダルクへの調査を行っている。 これらの成果は、国際犯罪学会報告や日本犯罪社会学会報告にいかされている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究の推進方策は、第一に、引き続き全米ドラッグ・コート会議へ参加し、ドラッグ・コート政策が抱える諸問題の現状を調査すること、および、社会的資源である自助グループに関する調査を行うことである。国内の調査としては、日本の薬物依存症回復支援団体として著名なダルクに調査を行い、日本における薬物支援のあり方について研究を行う予定である。その他、ダルク以外の支援施設への調査も行いたいと考えている。たとえば、ホームレス支援を行っている施設でも薬物問題を抱える利用者が存在し、その支援のあり方について試行錯誤されておられるし、知的障がい者支援を行っている施設であっても薬物問題を抱える利用者が存在する。このように、薬物依存からの回復を謳って活動されている施設以外の福祉施設であっても薬物問題が存在し、その対処の方法が異なっている。これらに注目し、徐々に調査を行っていきたい。 さらに、アメリカにおけるドラッグ・コート政策以外のハーム・リダクション政策にも注目すべきものがあり、その調査を行う必要があることが、これまでの調査で明らかとなってきた。アメリカがこれまで行ってきた、依存性薬物が社会に存在することがあってはならないことを前提に徹底した取締りを行っていくゼロ・トレランス政策とは対称的に欧州では、依存性薬物があることを前提に、いかに害悪を減らすかということに注目したハーム・リダクション政策を採っている。そのため、本研究の研究方策の第二として、欧州におけるハーム・リダクション政策をも視野に入れた調査を行う必要があると思われる。そこで、平成24年度は欧州における薬物政策なども同時に行い科学的証拠に基づいた薬物政策のあり方について調査を行うことを目標とする。 これらの成果報告としては、論文による公表のほか、24年度はアジア犯罪学会での報告も予定しており、積極的に行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の問題関心と、研究の推進方策実現のために、以下の研究計画である。(下記は、24年度の研究費が最大で80万円だった場合を想定したものである。)まず、【物品費】(5万円(予定))内訳は、薬物問題関連の図書および資料費:4万円、(日本国内の刑事政策・犯罪学・司法福祉・薬物政策関連資料など)および(英米圏を中心とした刑事政策・犯罪学・司法福祉・薬物政策関連資料など)、文房具等消耗品費:1万円である。【旅費】(65万円(予定))内訳は、全米ドラッグ・コート専門家会議(アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル):30万円、ドイツ:フランクフルト調査(ハーム・リダクション調査):25万円、国内調査(京都ダルクなどを訪問):10万円である。【謝金】(5万円(予定))内訳は、海外調査において専門的知識の提供者や通訳やコーディネートなどを依頼した際の謝礼金:5万円である。【その他】(5万円(予定))内訳は、研究会会議費(移動費含む):5万円である。 平成24年度は、5月30日からアメリカ合衆国テネシー州ナッシュビルにおいて開催される全米ドラッグ・コート専門家会議に出席する。さらに、8月に韓国ソウル市で開催されるアジア犯罪学会で現在の日本の薬物問題について研究成果報告を行う。平成25年2月には、ドイツ調査を行う予定である。
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