研究課題/領域番号 |
23730075
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 講師 (60586189)
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キーワード | 刑事政策 / 薬物政策 / 犯罪学 / ドラッグ・コート / ハーム・リダクション / 治療的法学 |
研究概要 |
依存性の高い薬物を法的に規制することで、国際的な薬物政策の主導をとってきたアメリカは、「薬物との戦い(War on Drugs)」をやめると宣言し、今後の薬物政策の在り方が注目されていた。アメリカでは、薬物専門の裁判所であるドラッグ・コートが存在し、司法・医療・福祉のつながりが重視されている。 日本では、薬物乱用防止五か年戦略が1998年に策定されて以来、現在にかけて国家的規模として薬物政策が行われている。しかし、いずれの戦略においても、徹底した取締りの強化が行われたが、薬物依存症をケアするという姿勢は行われてこなかった。 上記の問題関心の中、①社会的資源となっている自助グループなどの国内外の調査を行うこと、②1989年から開始されているドラッグ・コート制度を調査するとともに、③国際的なハーム・リダクション政策との関係で社会資源の役割と諸問題について検討し、日本の薬物政策の在り方を検討するということであった。 そこで、本研究では、アメリカがこれまで行ってきたドラッグ・コート政策を調査するとともに、日本におけるハーム・リダクションの在り方について研究することが目的であった。初年度である23年度は、全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、法曹三者が果たす役割およびドラッグ・コートに参加するソーシャル・ワーカーなどの実務家が果たす役割について調査を行った。さらに、それらの調査を踏まえ、国際犯罪学会や日本犯罪社会学会で研究成果報告を行った。 2年目に当たる平成24年度では、全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、薬物政策の変革期にあるアメリカの現状を身近に見ることができた。また、世界で最初に開設されたフロリダ州マイアミ市デイド郡ドラッグ・コートへの訪問調査を行った。また、研究成果報告として、3本の論稿と5つの学会等報告を行った(詳細は業績を参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ドラッグ・コート政策と社会的資源の誕生と発展を調査すること、およびドラッグ・コート政策と治療的司法の関係を調査すること、さらに、法曹関係者とドラッグ・コートを取り巻くワーカーたちの役割の変化について調査を行うことを国外における計画していた。 平成23年度は、全米ドラッグ・コート専門家会議(National Association Drug Court Professionals)に参加し、調査を行った。とくに、現在の日本との関連で興味深かったのは、「効果的な試験観察の運用について」というセッションであった。薬物依存症の回復はトライ・アンド・エラーの繰り返しであるので、一度や二度の再使用が確認されても、すぐに刑事罰を科すのではなく、引き続き治療プログラムを行うという点であった。社会防衛のために刑罰として薬物プログラムを重視するのか、本人の回復を重視するのかで対応が大きく異なると思われる。 平成24年度の主な活動としては、全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、ドラッグ・コート制度を運用している関係者との繋がりができるとともに、アメリカ全体の薬物政策の変動の時期が来ていること感じることができた。たとえば、アメリカでは2012年11月にコロラド州およびワシントン州にてマリファナの所持が合法化される州法が改正され、より欧州的なハーム・リダクション政策への方向転換が見られる。そういった活動も背景にある中、オバマ政権から全米薬物統制局の局長に任命されたG・ケルリコウスキは、全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、今後もアメリカ政府としてはドラッグ・コート制度に予算を付けることを言及していた。つまり、ある側面では非犯罪化の議論進む一方で、ある側面では刑事司法の中で治療を行おうとするドラッグ・コート制度への支援も進むなど、今後のアメリカ薬物政策に注目をする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究の推進方策は、昨年度までと同様に、引き続き全米ドラッグ・コート専門家会議に参加し、ドラッグ・コート政策が抱える諸問題の現状を調査すること、および、社会的資源である自助グループに関する調査を行うことである。つぎに、すでにアポイントが取れているニューヨーク州およびカリフォルニア州のドラッグ・コートを調査訪問し、サービス・プロバイダーに調査訪問することである。国内の調査としては、日本の薬物依存症回復支援団体として著名なダルクに調査を行い、日本における薬物支援のあり方について研究を行う予定である。 さらに、アメリカにおけるドラッグ・コート政策以外のハーム・リダクション政策にも注目すべきものがあり、その調査を行う必要があることが、これまでの調査で明らかとなってきた。上記にも紹介したように、2012年の11月に他の州に先駆けてコロラド州およびワシントン州がマリファナの合法化を行っている。とくに、ワシントン州はアメリカでも治安がいいとされているシアトル市を抱えている州であり、全米薬物統制局局長のG・ケルリコウスキが長年警察署長を務めていたゆかりのある土地である。ここでの合法化の取り組みがどのように評価されるのか、今後もその動向に注目が必要であると思われる。 アメリカはこれまで依存性薬物が社会に存在することがあってはならないことを前提に徹底した取締りを行っていくゼロ・トレランス政策を採ってきた。対称的に欧州では、依存性薬物があることを前提に、いかに害悪を減らすかということに注目したハーム・リダクション政策を採っている。そのため、本研究の研究方策の第二として、欧州におけるハーム・リダクション政策をも視野に入れた調査を行う必要があると思われる。そこで、平成25年度は欧州における薬物政策なども同時に行い科学的証拠に基づいた薬物政策のあり方についても調査を行うことを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の問題関心と、研究の推進方策実現のために、以下の研究計画である。 【物品費】(5万円(予定))・薬物問題関連の図書および資料費:4万円、(日本国内の刑事政策・犯罪学・司法福祉・薬物政策関連資料など)、(英米圏を中心とした刑事政策・犯罪学・司法福祉・薬物政策関連資料など)、・文房具等消耗品費:1万円。 【旅費】(65万円(予定))・全米ドラッグ・コート専門家会議(アメリカ合衆国ワシントンD.C.):30万円、ドラッグ・コート調査(アメリカ合衆国ニューヨーク州およびカリフォルニア州):25万円、・国内調査(三重ダルクなどを訪問):10万円。 【謝金】(5万円(予定))、・海外調査において専門的知識の提供者や通訳やコーディネートなどを依頼した際の謝礼金:5万円。 【その他】(5万円(予定))・研究会会議費(移動費含む):5万円。 平成24年度は、5月30日からアメリカ合衆国テネシー州ナッシュビルにおいて開催される全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、さらに、8月に韓国ソウル市で開催されたアジア犯罪学会で現在の日本の薬物問題について研究成果報告を行った。さらに、3月には、フロリダ州マイアミ市デイド群のドラッグ・コートに調査訪問を行った。平成25年度には、引き続き全米ドラッグ・コート専門家会議に出席し、9月にはニューヨーク州バッファロー市のドラッグ・コートおよびサンフランシスコのドラッグ・コートに調査訪問する予定である。
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