研究課題/領域番号 |
23730078
|
研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
永下 泰之 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20543515)
|
キーワード | 民事法学 / 損害賠償 / 素因 / 注意義務 / 注意水準 |
研究概要 |
本研究は、わが国における不法行為の被害者像につき、加害者および被害者の注意義務・注意水準との関係から検討を加え、もって被害者像を析出することを目的とするものである。 平成24年度前期には、前年度にドイツで収集してきた資料の整理・分析を行った。また、同時に、ドイツの研究者(ヨハネス・ハーガー教授@ミュンヘン大学)と意見交換を行った。以上の成果については、北海道大学の民事法研究会で報告するとともに、その一部を既に公刊した。 平成24年度後期には、考察をアメリカ法に転じた。アメリカ法の分析では、第一に、法と経済学(法の経済分析)の知見による加害者・被害者の最適注意水準設定の分析を中心的考察課題とし、本年度はそのための資料の収集を中心に行った。その過程から、注目すべき見解を有する研究者を見出すことができたため、当該研究者(スティーブ・カランドリロ教授@ワシントン大学)へのインタビューを行った。以上の考察の結果得られた知見は次のとおりである。1)アメリカ法においても、被害者の素因(脆弱性)は不法行為の成立および効果のいずれの場合においても、原則として考慮されないとの判例法理が確立しているが、これは加害者側に損害(素因の発現)の予見可能性を要求しないとする、厳格責任法理を採用したものである。これを経済学的に分析するならば、加害者に予見可能性を要求すると、加害者のモラルハザードが生じる(注意水準が過少になる)ことから、判例法理は合理的である。2)他方で、カランドリロ教授の分析によれば、予見可能性という指標がなければ、被害者側にモラルハザードが生じる(被害者がなにも注意しなくなる)ため、判例法理を修正すべきである(予見可能性基準を採用すべきである)。相反する見解であるが、ここから被害者の注意義務・注意水準につき示唆が得られたことから、次年度に報告および論文として公表する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度前期計画であるドイツ法の分析は、順調に行われ、その成果を北大民事法研究会において報告するとともに、その一部を既に公表している。 また、平成24年度後期計画であるアメリカ法の分析も、順調に行っており、成果の公表準備も整っている。他方で、アメリカ法分析の第二の課題である、遺伝子情報に基づく差別禁止法の分析については、若干の計画から遅れてはいるが、資料の収集・分析は進めており、次年度には公表できる態勢にある。 以上の通りの状況であるので、「おおむね順調に進展している」といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法としては、まず、アメリカ法の分析、とくに法と経済学(法の経済分析)から得られた知見による加害者・被害者の最適注意水準について、さらに分析を行い、報告するとともに論文として公表する予定である。第二に、遺伝子情報に基づく差別禁止法の分析については、予定に遅れが生じているが、資料は揃っているので、さらに分析を深め、次年度中には公表する計画である。 次年度は、最終年であることから、これまでの成果をまとめ、わが国の不法行為法における被害者像について、ひとつの提言を示す予定である。その際には、複数の研究会で報告し、刷新の上、論文として公表する計画である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|