研究課題/領域番号 |
23730081
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
林 誠司 小樽商科大学, 商学部, 教授 (20344525)
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キーワード | 可能性 / 因果関係 / 証明責任 |
研究概要 |
我が国の民事裁判例で見られる「相当程度の可能性」概念の意義と限界に関して、過誤と結果(死亡等)の因果関係が推認される事案と「可能性」侵害が認められるに止まる事案との区別をなす判断基準を示すとの目的のもと、ドイツにおける因果関係に関する証明責任の転換の議論に検討を加え、以下の示唆を得た。 すなわち、特に医療過誤訴訟につき証明責任の転換が認められるためには、イ)医療実務において承認されている医療準則(当該状況において医師としてなすべき処置)からの逸脱それ自体が、その逸脱により生じた状況を顧慮することなく直ちに結果との因果関係を推認させるのではなく、その準則が防止しようとしていたまさにそのリスクが実現したのでなければならないこと、さらに、ロ)実体法上の責任厳格化と手続法上の証明緩和の密接な相互関係という視点から、疾患それ自体のリスクや通常の治療に伴うリスクが実現しただけではなく医師による危険増加と危険支配の可能性が存在することが必要である。 とりわけ、「機会の喪失論」(我が国の「相当程度の可能性論」に相当する)が特に問題となりうる不作為事案では、単なる不作為により疾患リスクが実現しただけでは証明責任の転換に至らず(この場合、「機会の喪失論」又は「相当程度の可能性論」の問題となる)、加害者たる医師が転医を怠るなどして事実上患者からセカンドオピニオンを得る機会を奪い又は第三者たる別の医師による治療を不可能としていた等の事情が加わることにより、証明責任の転換が認められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までにおいて、以下の点を除きおおむね順調に進展している。 ・上記「研究実績の概要」記載の成果の公表。 ・損害算定の場面でZPO287条による割合的賠償(実質的な素因斟酌論であり機会の可能性論とその機能が部分的に重複する)を認めるドイツの議論の検討から素因減額事案が対象とすべき領域の確定に関する示唆を得る点。
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今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績の概要」記載の成果を早急に公表するとともに、損害算定の場面でZPO287条による割合的賠償を認めるドイツの議論の検討から、素因減額事案が対象とすべき領域の確定に関する示唆を得るほか、従来の研究成果を併せて総合的・包括的考察を行い、そこから得られた知見を外つの研究成果に昇華する。
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次年度の研究費の使用計画 |
・当該研究費が生じた状況:為替レートの変動により書籍(洋書)購入費として当初見込んでいた金額と実費で差が生じたため。 ・翌年度での使用計画:翌年度購入予定の書籍購入費に充当する予定。
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