平成25年度においては、平成24年度までに実施した研究の成果をまとめると共に、因果関係に関する証明責任の転換にかかわるドイツでの近時の議論についての検討を、ドイツの文献を基にさらに補充し、さらに文献から得られる情報の限界を補うべくドイツへ赴いて現地の研究者へのインタビューを実施し、医療過誤と患者に生じた最終的結果の因果関係を認めるべき事案と「相当程度の可能性」侵害を認めるにとどまる事案の区別をなす基準についてより深い示唆を得た(その成果は近時公表予定である)。 上記の研究及び平成24年度までに実施した研究の成果として、主として、「相当程度の可能性」論のいわば「下限」と「上限」を明らかにすることができた。すなわち、①「下限」、すなわち「相当程度の可能性」侵害が認められるための要件については、生命・身体という高次の法益の抽象的危殆化自体を防止すべく、それらの法益の外延として、患者の疾病リスクの客観的制御可能性を有する医師への「信頼」自体が被保護法益として措定され、それ故に怠られた治療が有意な生存の機会をもたらすものである限り原則として治癒の蓋然性を問わず「可能性」侵害が認められるべきであり(反対に、単なる粗雑診療を理由とする「可能性」侵害は認められるべきでないこと)、②「上限」、すなわち「可能性」侵害にとどまらず患者に生じた最終的結果を医師側に帰責する要件については、医療過誤と患者に生じた最終的結果の因果関係を患者が解明しえない場合、手続法及び実体法の観点から解明不能のリスクを患者側に負わせることを是認しえないとき、因果関係が認められ、最終的結果自体が医師に帰責される結果、「可能性」侵害を論ずる余地がなくなるといえよう。 上記の成果は、これまで明確ではなかった「相当程度の可能性」論の適用領域を明らかにした点において、実務上の重要性を有するものといえる。
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