本研究の成果は主として①「相当程度の可能性」侵害が認められるための要件、及び②「可能性」侵害に止まらず患者に生じた最終的結果を医師側に帰責する要件を明らかにした点である。①については、生命・身体という高次の法益の抽象的危殆化を防止すべく、患者の疾病リスクを客観的に制御しうる医師への「信頼」自体が被保護法益とされ、それ故に怠られた治療が有意な生存機会をもたらしうる限り治癒の蓋然性を問わず「可能性」侵害が認められる。②については、手続法及び実体法の観点から過誤と最終的結果の因果関係の解明不能リスクを患者側に負わせることを是認しえないとき、因果関係が認められ「可能性」侵害を論ずる余地がなくなる。
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