昨年度、ドイツの「年金権調整制度」に関する、改正に至る議論、新たな制度導入後に指摘されている問題点に取り組んだが、本年度も引き続きドイツにおける新たな制度の考察を中心として進めた。特に本年度は、改正制度の概要を明確にし、その上で残されている問題点を論文から広く集め、整理する事に努めた。その中で指摘されていた最も大きな問題としては、分割割合について二分の一原則を達成する事の困難さであった。ドイツにおいては、年金権調整に(公的・私的を問わない)様々な年金を対象としている事もあり、この原則の達成に苦慮している現状が見られた。これらの研究成果については、「ドイツにおける年金権調整制度の改正について-我が国への示唆-」『家族と社会保障をめぐる法的課題』(本澤巳代子先生還暦記念)として公表予定である(現在校正段階)。 我が国の状況に関しても、裁判例・学説を中心として研究を進めた。我が国における年金分割の実務上の扱いについては、按分割合50%で処理することで固まりつつあった。この点についても、上記論文において公表する。 ドイツにおける制度と我が国の制度を比較した上で、大きく二点の相違について着目し、今後の制度の在り方について指摘しておきたい。一点目は我が国では公的年金の2階部分のみを分割対象としているのに対して、ドイツでは私的・公的年金を含めたあらゆる年金を分割対象としている点であり、二点目はドイツの年金制度は、制度的に様々な手当てがなされている点である。一点目については、今後の我が国の年金制度の動向を踏まえる必要があるが、公的年金以外を分割の対象に含める場合には、公的年金と私的年金の分割では異なった制度設計をすべきと考える。二点目の制度的な手当てについては、現在我が国の制度では、年金を分割することは可能となったが、それ以外の制度的手当はほとんどなされておらず、早急に対処が必要である。
|