契約不履行に基づく損害賠償の理論枠組みという視角から、「契約責任」論、契約不履行法、履行障害法を検討し、その成果を契約法、民事責任法の基礎理論と接合する研究を行った。具体的には、1.賠償モデル、履行モデルという2つの理論枠組みを分析視角として設定し、2.このモデルを用いて契約不履行に基づく損害賠償に関わる実定法及び学理的議論を分析した後、3.各モデルの実践的・社会的意義及びその背景を探求しながら、4.前提となるモデルが契約不履行法、民事責任法、及びそれらの体系化にどのような影響をもたらすのかを考察して、5.上記の諸成果を現在の法の解釈としてのみならず、制度設計のための枠組みとして構築した。従来の契約不履行に基づく損害賠償に関する議論は、それを不履行によって生じた損害を賠償するための制度として捉える構想(=賠償モデル)を所与の前提として展開されてきた。しかし、その結果、契約不履行に基づく損害賠償、そして、契約不履行法や民事責任法に関する様々な場面で、多くの理論的・実際的・体系的問題が生じてしまっていた。本研究は、契約不履行に基づく損害賠償を契約の履行方法として捉えるモデルという、これまでには存在しなかった考え方を構築することで、従来の議論(=賠償モデル)に内在する諸問題の所在を批判的に解明し、それと同時に、そこでの問題を克服するための方向性を打ち出している。更に、本研究は、上記2つのモデルを歴史的・社会的コンテクストの中に位置付けることによって、契約不履行に基づく損害賠償、契約不履行法、損害賠償法に関する制度及び諸規定を解釈する際の基礎を提供するだけでなく、これらの制度を新たに設計する場合の有用な視角をも提供している。
|