研究課題/領域番号 |
23730089
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齋藤 由起 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (40400072)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 民法 / 保証 / 錯誤 |
研究概要 |
本研究は、保証人の責任制限や保証契約の効力否認に関する判例・裁判例・立法の動向を、消費者保護思想・契約学説の変化といった法的背景、経済状況の変化や金融・保証政策と連動させながら追跡して、わが国の保証人保護法理の展開を現代社会の変化との関係で位置づけるものである。 本年度は、保証責任が現実化するリスク、具体的には、主債務者の属性・資力、他の担保の存在、融資金の使途、空クレジットの錯誤等に関する保証人の錯誤についての日本の判例の展開を事案類型ごとに民法制定後から現在まで網羅的に分析した。上記の錯誤は動機の錯誤であるが、これは表示されて意思表示の内容に取り込まれると要素の錯誤になり得るとする判例法理が確立している。しかし、保証契約の目的を考慮し、保証責任の現実化のリスクに関する動機は保証契約の内容になり得ないとする見解も存在する。 その結果、(1)全体的な傾向として、動機の要素化の判断枠組について、裁判例は各時期の錯誤論の支配的学説の影響を受けており、動機の要素化は、錯誤一元論や動機表示構成の台頭に伴い認められやすくなっている。(2)(1)の全体的傾向とは別に、主債務者の無資力等のリスクを債権者と保証人とのいずれが負担すべきかにつき裁判官の考えには個人差があり、動機の表示の有無の認定に各裁判官の見解が反映され、判断にバラつきがある。(3)昭和60年代以降、債権者が保証人の錯誤を惹起した場合に錯誤無効が認められやすい。(4)平成不況以降、金融政策の影響を受けて主債務者の資力の錯誤が問題となる事案が急増した。(5)近時は、債権者と保証人の調査能力の格差や関係性に着目して、債権者が主債務者の無資力を負担すべきとする場合には錯誤無効を認める傾向にある。 この分析により、錯誤が説明義務の代替的役割を果たしてきたこと、保証契約に対する見方が特に平成期以降、金融政策の影響も受けて変容していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
保証と錯誤に関する日本の判例の展開をまとめた論文を平成23年2月までに提出する予定であったが、脱稿に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、平成23年度の作業を継続するとともに、日本の保証人保護法理及び立法の全般的動向について、フランスの学会で報告する機会を得たため、わが国と同様の問題を抱え、次々と立法の展開しているフランスで日本の状況を報告する。これにより、日本の情報を海外に発信する。また、わが国の保証法改正作業が現在進行しているが、この問題につき立法の点で先進国であり、数々の法改正によって成功と失敗を経験をしているフランスの研究者との率直な議論によって、わが国の法理の展開を相対化するとともに、立法への示唆を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、日本の保証人保護法理及び立法の動向について、フランスでの報告を2回予定している。論文及び報告原稿(各2回分)を作成する必要があるため、校正等の作業を依頼するため、謝金の支出が必要となる。 また、民法及び倒産法制関連の最新の情報を入手するため、書籍を購入する必要があり物品・消耗品費が必要となる 資料の整理のため、ファイルなどの物品・消耗品費が必要となる。
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