研究課題/領域番号 |
23730089
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齋藤 由起 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (40400072)
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キーワード | 保証 / 保証人の保護 / 民法(債権関係)改正 |
研究概要 |
本年度は、民法制定以来の保証人保護をめぐる判例・学説・立法を、次に、①債権者の保証人に対する義務の拡大、②過剰債務に対する保証人の保護、という2つの視角を設定して、日本法の展開を分析した。 ①については、日本では、契約締結後の情報提供義務が契約締結過程のそれよりも先に認められていた。根保証については、20世紀前半から、保証契約締結後の保証人にとって予測不能な事情変更について、特別解約権が行使されない場合に保証人の責任制限を認める中で、債権者の通知義務違反が暗に考慮されていたのに対して、契約締結時については、私的自治の原則に基づいて債権者の説明義務について否定的であった。情報提供義務につながる主債務者の資力に関する錯誤無効、根保証の範囲に関する説明義務等が認められるようになったのは20世紀後半であり、2004年改正における書面契約化、極度額の強制なども間接的に説明義務の機能を果たしている。 ②については、破産免責が早くから導入されていたため、過大な責任からの保証人の保護の民法上の必要性は否定されてきた。2004年改正で事業者の早期の事業再生の観点から、民法レベルでの保証人の過剰債務防止が検討されたが、規制緩和政策の一環としての改正だったため、保証人に自己の責任を認識させるための保護にとどまったが、個人保証に頼らない融資環境の整備という金融政策が熟した中での今般の改正では、保護の強化による融資抑制の危険を考慮せずに、第三者保証の禁止、保証人の資力に応じた保証債務の減免が検討されている。その目的は社会的弱者とくくられた第三者の保証契約からの排除と経営者保証人の早期の事業再生・倒産予防であり、これらの手段はもはや従来の民法理論とは整合的に説明がつかず、民法の倒産法化とも言い得る。これらが民法典で規定されるべきかは検討の余地がある。 本研究の成果は民法改正に重要な示唆を与えうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、従来の判例・判例・学説における保証人保護法理の展開を、債権者の義務の拡大と過剰債務対策の2つの視角を設定して分析した。フランスの国際学会で2度の報告、2度の報告(講演)を行い、フランスでの論文を2本提出した(未公刊)。
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今後の研究の推進方策 |
民法(債権関係)改正の中間試案が2013年2月に公表されたことを受けて、パブリックコメントの募集があるため、これまでの研究成果を生かしてコメントを提出する予定である。 滞在中のフランスにおいて、今年度も2回の報告を予定しており、日本の保証人保護法理の展開について(特に民法(債権関係)の中間試案について)情報を発信する予定である。中間試案では中小企業金融政策とリンクして、比較法的に例を見ない個人保証の禁止といった厚い保護を民法の中で実現しようとしているが、保証人保護の中小企業金融政策との関わり、倒産法制と民法のすみわけのあり方などについて、フランスの研究者や実務家との意見交換によって、議論を深めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、フランスでの報告を現時点で2回予定している。論文および報告原稿を作成するため、校正謝金の支出が必要である。また、民法および倒産法関連の最新の情報を入手するため、書籍を購入するための物品・消耗品費が必要となる。
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