本研究の目的は、費用対効果等の点から各権利者による個別の権利行使が事実上期待できないとされている、いわゆる拡散的権利を有する者が、その適正かつ実効的な実現を求めて司法にアクセスするための民事訴訟手続上の解釈論または立法論を提示することである。平成25年度には、前年度に引き続きアメリカ法にかんする調査を行うとともに、日本で成立した「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」に基づく裁判手続について検討した。 1.アメリカ法について 消費者被害にかんするクラス・アクションでは、公民権に関するクラス・アクション等に比べると、被害を受けた消費者が訴訟手続や和解手続に対して積極的に関与する割合が著しく低いことが判明した。その低い理由としては、クラスの勝訴によって各自が得る利益が比較的小さいという実体的・経済的な理由のほかに、代表者の訴訟追行にかんするの情報が各権利者に十分に行き渡っていないという手続的な理由が考えられる。そのため、権利行使に際してアメリカ以上に消極的とされる日本においては、各消費者に対する情報提供のあり方が重要であると判明した。 2.日本法について 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」が平成25年12月11日に公布されたことから、本法律に基づく裁判制度の検討が急務となった。この手続で特定適格消費者団体は、共通義務確認訴訟においても、第二段階の簡易確定手続においても、被告と和解をすることが認められている(同法10条、34条)。和解手続は、権利者たる消費者にとって有益なものとなるよう監視される必要がある。この点について、アメリカ法の分析を参考に、消費者が裁判手続に関心を有する前提として、手続にかんする十分な情報を適切な形で権利者たる消費者に提供する手段の整備が不可欠であるとの結論に達した。
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