研究課題/領域番号 |
23730097
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鶴田 滋 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90412569)
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キーワード | 固有必要的共同訴訟 |
研究概要 |
平成24年度における、本研究の成果は主に次の2点にある。 第一に、「家事事件手続法における職権主義と手続保障」と題する研究報告を平成24年6月に開催された第17回日韓家族法学会で行い、その報告内容を、同年12月に、法政研究(九州大学)79巻3号に掲載した。ここでは、遺産分割の前提となる民事訴訟事件が、実質的には家事事件であることから、遺産分割審判に妥当する職権参加の手続規律が当該民事訴訟事件にも類推適用することが可能であることを示した。このような解釈論は、共有者間の内部紛争における固有必要的共同訴訟とされる事件には、非訟的な要素を含む場合が多いとの研究当初の問題意識から、最近立法された家事事件手続法における手続規律の特色を考察する中で考案されたものである。 第二に、「共有者の内部紛争における固有必要的共同訴訟の根拠と構造」と題する研究報告を、平成25年3月に九州大学で開催された民事手続研究会において行った。ここでは、本研究のいわば集大成となる研究の中間報告を行った。具体的には、伝統的見解は、通常は、ある事件を固有必要的共同訴訟とする根拠を、当該訴訟の対象となる実体法上の権利関係の処分権能に求めるが、第三者の提起する婚姻無効または取消訴訟、共有物分割の訴え、遺産確認の訴えなどは、他人間の権利関係についての形成訴訟と位置づけ、これらの場合には例外的に実体法上の処分権能から共同訴訟の必要性を根拠づけていないことを明らかにした。しかし、私見によれば、これらのケースも、いわゆる管理処分権説により共同訴訟の必要性を説明することができることを明らかにした。今後は、前述の私見をより緻密にすることと、上記のケースにおける訴訟構造を明らかにし、その成果を論文として公表することが課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の理由は、次の二つにある。 一つは、本研究を行うための前提となる知識の整理が順調に進んでいることにある。具体的には、たとえば、共有者の内部紛争における固有必要的共同訴訟は、非訟的性格を有しているとの問題意識から、新たに立法された家事事件手続法の特色を、前身の家事審判法の特色と比較することを通じて明らかにすることができた。その他、文献を収集、検討することにより、日本における共有物分割および遺産分割における実体法的規律と手続規律をより正確に理解することができた。 もう一つは、本研究の最大の目標である、共有者の内部紛争における固有必要的共同訴訟の根拠を明らかにする見通しがついたことである。これは、比較対象国のドイツにおける固有必要的共同訴訟の議論をフォローした結果、ドイツでは、日本のように、管理処分権の共同の場合と第三者の提起する他人間の権利関係の形成訴訟とを区別せず、管理処分権(実体適格)の共同の場合に固有必要的共同訴訟が成立すると説明されているとの感触を得たためである。もっとも、この点についてはさらに詰める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の最終年度として、次の2点について重点的に研究する。 一つは、共有者の内部紛争における固有必要的共同訴訟の根拠をさらに緻密に明らかにすることである。私見は、係争権利関係についての実体法上の処分権能の共同を、固有必要的共同訴訟の根拠に求めるが、そのためには、共有者の内部紛争における訴訟の対象が何であるかを明確にする必要がある。また、その訴訟対象の性質から、共有者全員を原被告とする固有必要的共同訴訟であることを論証しなければならない。この点をさらに詰めることが今後の課題である。 もう一つは、共有者の内部紛争における固有必要的共同訴訟の訴訟構造を明らかにすることである。今のところ、共有者の内部紛争であっても、原告により主張された請求の当否のみを判断する訴訟では、二当事者対立構造を維持し、共同原告又は共同被告間でも利害が対立するような訴訟では、三面訴訟を認めてよいと考えるが、さらにこの根拠を詰める必要がある。また、共同原告・共同被告間にどのような理由・方法で既判力を及ぼすのかなどの問題を検討する必要がある。これは困難であるが今後の課題とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、今年度までと同様、次のように研究費を使用する予定である。 第一に、日本と、比較対象国であるドイツ・オーストリアに関する民事手続法、民法等の文献を収集する。次年度は、本研究の最終年度を予定しているため、日本法の解釈論を行う論文を執筆するために、日本法に関する最新の図書・雑誌や、外国の最新の教科書やコンメンタールを中心に購入する予定である。 第二に、本研究課題に関連する情報を収集するほか、本研究課題の中間報告を行い、他の研究者からの意見を承るために、日本国内の学会や研究会に出席し、場合によっては報告を行う予定である。また、今後必要となる場合には、外国の大学で資料や情報を収集することもあり得る。以上のことを行うための旅費として、研究費を使用する予定である。
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