研究課題/領域番号 |
23730098
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原 恵美 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (60452801)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | フランス民法 / 信託 |
研究概要 |
本研究は、フランス法の信託財産の構造を調査し、我が国の信託財産の解明の一助となることを目指すものである。その際、近年様々に議論が展開されているヨーロッパにおける信託統一(あるいは共通項目の抽出)を目指す動き(ex. ヨーロッパ信託法原則、私法参照枠草案(DCFR)、財産隔離手段に関するEU指令策定に向けた動き)を参照することによって、フランス信託の特徴を浮き彫りにする。我が国の信託財産については、例えば、信託設定段階における将来財産や消極財産の扱いが必ずしも明らかではなく、議論が活発になされているとは言えない状況にある。フランス信託法は2007年に成立したばかりであるが、信託財産に着目した議論が意識的におこなわれているため、「財産」に着目することで、日本法の信託財産の考察を深めることができると考える。 初年度である本年度は、予備調査として、フランスとドイツの信託の専門家と意見交換する機会を得た。フランスについては、信託の利用目的として「管理のための信託」と「担保のための信託」があるが、その双方を含んだ形で広範に信託について調査できた。その結果、「管理のための信託」を設定する場合に、設定者が信託をいつでも撤回できるという条文が信託普及の阻害要因となることが明らかになった。また、より広く財産隔離機能の面からみると、信託(および2010年に制定された有限責任個人事業者法)は、フランスの古典的な資産(patrimoine)論の理論的転換を迫るものではあるものの、隔離機能が不徹底であるため、古典的資産論からの脱却という意味における実務へのインプリケーションはわずかに留まることが明らかになった。 さらに、近年、英米やミクスト・リーガル・システムの国々を中心に展開されている信託の共通要素を抽出する作業に関する文献調査を行った。この作業については次年度以降に継続して行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ヨーロッパ信託法統一を検討する前提の作業として、ドイツおよびフランスの信託の理論と利用状況を調査することができた。具体的には、ドイツの信託についてはライナー・シュレーダー教授、フランスの信託についてはシルヴィー・ルロン弁護士の講義を聞き(翻訳を担当)、また意見交換する機会を得た。この講義については、慶應法学23号(2012年)にその翻訳が出版される。 また、そのほかに、フランス信託法は立法当初、「管理のための信託」と「担保のための信託」の双方を目的とする制度設計がなされてもの、現在では「担保のための信託」にその利用が限定されつつある背景事情について研究をすすめた。この成果については、ABL研究会(ABL協会代表:池田真朗・慶應義塾大学教授)において報告する。 ただし、ヨーロッパ信託法統一の検討をすすめる上で欠かせない、私法参照枠草案については、信託に関する条文は2008年に公表されているものの、信託部分の注釈書の出版が何度か延期されている。このため、私法参照枠草案の検討が不十分になっている。 以上より、おおむね研究目的や研究計画に従って研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
日仏の信託の比較を行った上で、英語で論文を執筆する予定にしている。その際、イギリスの判例を端緒として、ヨーロッパの信託統一の動向の中でも重要な位置を占める信託の「削減できない核心」たる部分は何であるのかという議論に着目する予定である。 また、9月にフランスに渡航する予定であるため、その際に、現地においてフランス信託法の調査を行う。 さらに、ヨーロッパにおける信託法統一化の動向を把握する上で検討不可欠である、私法参照枠草案(DCFR)の信託に関するを調査する。当該注釈書については、出版が遅れているが、2012年12月には出版されるようであるため、それを受けて、ヨーロッパにおける信託法統一の最新動向について調査することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
フランスにおいて、9月に信託の財産構造に関する報告を行う。そのための渡航費用に予算の大部分を利用する。 また、昨年度と同様、継続して信託に関する文献を購入する費用に充てる。
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