研究課題/領域番号 |
23730098
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
原 恵美 学習院大学, 法務研究科, 准教授 (60452801)
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キーワード | 信託 / 財産隔離 / 責任財産 |
研究概要 |
二年目である本年度は、信託の本質論と受託者の義務の関係性について、特にフランス法を分析した上で、その成果について報告する機会を持つことができた。この点、我が国においては、信託法の特色である受託者の義務の任意規定性について、信託の本質が失われるような義務の削減の可能性が問題提起されていることからしても、重要性の高い議論であることが明らかである。 まずは議論の出発点として、英米法の国々について調査した。そこでは、信託の「削減できない義務(irreducible core)」の内容を模索する議論があり、具体的には、(1)受託者の注意義務を排除できるかという免責条項の有効性にかかわる問題、(2)信託の基本を維持するための義務は何かという問題の両方を包含していることが明らかとなった。 他方で、いわゆる大陸法型信託(例えば、スコットランド、ケベック、フランス)についてはどうか。大陸法型信託の本質は、委託者と受託者の間の「契約」による「資産」の形成にある。そこで、この本質を前提として、受託者の義務の内容と構造の解明のため、特にフランス法を検討した。その結果、まず、フランスにおいては、信託の柔軟性の確保という観点から、受託者の義務に関する規定がわずかにとどまる。しかし、契約の一般法理は信託に及ぶ。このような信託法の構造は、信託に対する委託者のガバナンスが行われることが信託の望ましい形であることを意味するが、ガンバナンスの限界が信託契約の再法性決定という形で論じられている。他方で、「資産」は信託の財産隔離機能と流動性(物上代位性)が導き出される論理的根拠を提供しているが、具体的な義務との関係では、資産論を媒介とすることによって他の財産体の規律を類推する可能性があることについて明らかになった。資産論との関係については、今後さらに研究を深めることとする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のような研究作業によって、研究進展に向けて前進することができたため、本研究は概ね順調に進行していると言える。まず、大きな成果としては、 (1)フランスにおいて、日仏の研究者で行うセミナーにおいて、信託の義務論について報告したことである(その概要については、法律時報2013年6月号に掲載)。このセミナーでは、対象報告者のフランス人研究者とともに、信託の本質について、義務の観点と受託者の有する権限の観点の双方から理解を深化することができた。 さらには、以下の研究会にて、本研究関連の報告をする機会を得た。(2) ABL協会主催の研究会において、事業包括型担保を信託によって実現できるのかにつき、フランスにおける「担保のための信託」を中心として検証した(2012年5月30日)。他にも、(3) 学内の研究会(能見善久学習院大学教授主催)において、財産の概念の変容について報告した(2012年7月25日)。また、(4) 成年後見に関する研究会(代表:岡孝学習院大学教授)で、フランスの「管理のための信託」が、高齢者の財産管理制度として有用か検証する報告を行った(2012年12月8日)。さらには、(5) 信託法を専門とする弁護士によって構成された、「第一東京弁護士会信託法研究会」(代表:寺本振透九州大学教授)において、大陸法型信託の本質に関して包括的に検討する報告を行った(2013年3月18日)。 この他にも、ミクスト・リーガル・システムと位置づけられるルイジアナ法について、意見交換を行った(2012年9月29日、10月1日)。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通じて、大陸型信託と英米型信託の構造的相違についてより一層研究を深めることができた。そこで、今後は、両法体系における信託の共通項を探りだす作業に着手する。この作業は、すでに信託の統一的定義の可能性という形で議論されており、これまでは信託の機能に着目した定義がなされている。しかし、このような機能面にかぎらず、本年度着目した受託者の義務や権限の面からの共通項の探求を行うこととする。 そこで、イギリスを中心とする義務の免責条項の有効性とその限界の議論の背景事情を模索する。他方で、大陸法(あるいはミクスト・リーガル・システム)の国々における英米由来の信託の体系整合性の議論を整理する作業を行う。現段階においては、これらは、主として、(1) 信託は、英米法においても債権法上の権利・義務レベルにおいて把握できるという理解の上、義務レベルにおいて両法体系は相違ないとするもの、(2) 大陸型信託を英米型信託との構造的相違を前提とし、その上で、類似の財産隔離機能と財産流動性を維持するものに大別出来ると考えている。 以上のような議論を集約した上で、両法体系を融合することを目的とする、DCFRの規定は如何に生成されたのか検証し、あわせて日本の規定とDCFRの規定を比較検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
以上の推進策を踏まえた上で、次年度は、大陸型信託と英米型信託の共通項の分析の作業を進めるため、引き続き、研究会等において報告する機会を設ける。また、昨年度と同様、継続して信託に関する文献を購入する費用に充てる。
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