本年度は、これまでの研究を継続し、「信託の受託者の義務」と「信託財産」の二点につき、特にフランスにおける担保目的で設定された信託に焦点を定め分析を進めた。 フランスでは担保目的での信託の利用が制度設計の段階から予定されており、また実例も報告されている。特に、2007年の信託法制定以来、最近になって実務家によって利用実績の報告がなされており、そのような利用例を分析した。 その上で、フランスにおいて、担保目的の信託の利用を可能とする前提には、英米型信託(trust)で想定されているような受託者が受益者との関係で負う忠実義務が、少なくともフランス民法典上は信託の本質的要素とされていないことが挙げられる。したがって、受託者が受益者を兼ねるような担保目的の信託の設定が可能となっている。 他方、財産の集合に対する担保という観点からすれば、営業財産質、集合有体動産質権と集合無体動産質権とならんで担保目的のための信託が存在する。そのそれぞれの担保について、集合を形成するための装置が用意されている。こうした集合に対する担保の中で、担保目的の信託は、様々な財産を含む幅広い対象物を含めて設定することができる担保であり、営業財産、在庫、売掛金のすべてに対する包括的な担保となる余地を提供する。 そして、これらの集合に対する担保の意義については、担保法の基本原則である「特定の原則」との関係と代替可能性が認められる範囲という二点から論じることが有益である。この観点から信託を相対化する作業を行った。以上については既に論文を執筆しており、近く公表される予定である。
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