本研究の目的は、離婚時の財産分与における補償概念の導入妥当性及びその付与・内容の決定基準を検討することにある。研究の方法としては、アメリカ法律協会(American Law Institute)が2002年に公表した『婚姻解消法の原理(Principles of the Law of Family Dissolution)』で示される補償の原理を中心に検討することとした。これは、日本法における補償概念が離婚後扶養の根拠及び付与・内容の決定基準が不明確なため離婚後扶養に代わるものとして主張されたものであり、『婚姻解消法の原理』の補償の原理も日本法における補償概念と同様の状況からつくられたものであったためである。 『婚姻解消法の原理』は各州の制定法及び判例において影響を及ぼすことが予想されていたが、現在において、補償の原理を引用した判例は少なく、大多数の州の制定法が離婚後扶養(alimony、spousal support)の概念を維持したままである。 しかしながら、『婚姻解消法の原理』のように明確な基準を定めるなど離婚後扶養に関するガイドラインがつくられおり、また、離婚後扶養の新しい形として補償的な内容の離婚後扶養を認める州の制定法や判例が多数見られるようになっていることが平成26年度の研究から明らかである。これらの状況から、現在では『婚姻解消法の原理』の影響があまりみられないが、補償概念の導入に問題はなく、今後『婚姻解消法の原理』をめぐる状況に変化がみられるのではないかと考える。今後の研究として、『婚姻解消法の原理』及び離婚後扶養をめぐる各州の今後の動向を分析し、補償概念の導入妥当性及びその付与・内容の決定基準を検討する際の参考としたいと考えている。
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