研究課題/領域番号 |
23730118
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
愛知 靖之 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (40362553)
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キーワード | 特許権 / 著作権 / 消尽 / 知的財産の流通 |
研究概要 |
本研究の目的は、特許法及び著作権法における消尽法理の理論的根拠の解明とその要件論の再構築を、法学的側面と経済学的側面の両面から総合的に行うものである。今年度は、平成23 年度の研究で達成された従前の裁判例・学説の体系的整理を前提に、もっぱら消尽法理の適用要件論に関する研究に従事した。 この研究に際しては、関連する内外の裁判例が新たに登場したことに鑑み、その理論的検討が中心となった。1つは、特許法上の「生産」概念に関する判決であり、物の「生産」には、供給を受けた物を素材として、加工・修理・組立て等これに何らかの手を加えることが必要であると判示したものである。かような考え方は、消尽の成立をを否定する「生産」要件について、製品に対する物理的加工を要求する研究代表者の見解と整合性を持つものの、本判決のような「生産」概念の厳格な理解には反対も強い。そこで、消尽の局面においては、最高裁判決が用いた「製造」概念を再評価し、これを「生産」概念と峻別する可能性について検討した。 さらに、適法ダウンロードされた著作物の複製物の流通に対する消尽法理の適用をめぐる欧米の動向にも注目した。従来、消尽法理は、権利者が有体物としての特許製品あるいは著作物の化体した有体物を譲渡した場合にのみ適用される法理と考えられていたところ、権利者等による著作物の第一拡布が、インターネット上での無体的な手段での拡布であった場合、同法理の適用があるのかという問題である。市場における円滑な流通確保という消尽法理の正当化根拠は、インターネットを介した著作物の流通にも等しく妥当すると考えられることから、消尽法理の適用を肯定すべきではないかという方向から考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に行った従前の裁判例・学説の体系的整理を前提として、消尽法理の要件論を再検討するという当初の目的を、新たに登場した内外の裁判例をも踏まえつつ、おおよそ達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究のまとめとして、法学・経済学両面からのアプローチを接合した総合的な研究を行い、理論的根拠と整合的な要件論・効果論の確立を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に引き続き、本研究課題に関連する文献・資料の購入を進める。また、本研究目的を達成するためには、実務家との交流により実務的知見を獲得することが不可欠となる。そこで、学会や研究会等に積極的に参加し、研究成果の報告や意見交換を通じて、他の研究者の研究成果に触れるとともに実務的知見を獲得する。そのための旅費を支出する。さらに、今年度に予定していた内外の研究調査について、調整がつかず断念せざるを得なかったものもあり、研究費に残額(次年度使用額)が生じた。次年度は、これを外国旅費として支出する予定である。
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