平成25年度は、前年度までの研究成果を踏まえて、クリエイティブ産業において知的財産法が果たすべき役割についての各論的検討を行うとともに、3年間に渡る本研究の総括を行なった。 各論的検討としては、私たちが多様な実演を享受できる環境を整備するための方策について検討した。著作権法が定める「実演家の権利」が、いかなる利害関係者に対して、いかなる機能を果たしているのかということを考察するとともに、「実演家の権利」によるエンパワーメントからこぼれ落ちる実演や実演家の活動について、いかなる文化政策的なサポートが必要になるのかという考察を行なった。これにより、クリエイティブ産業において重要な位置を占める再現芸術において、知的財産法がいかなる役割を果たしうるのかということについて、一定の見通しを得た。 また、本研究において、現代アート、工芸、電子出版、ファッション、実演などの各論的検討を行なったことを踏まえて、クリエイティブ産業において知的財産法が果たすべき役割についても考察した。そこで得た暫定的な結論は、知的財産法は、平準化された品質の知的成果物を、複製物(書籍、CDなどの大量生産可能な商品)や公衆送信(放送やネット送信)などのルート(いわゆる「マスメディア」のルート)を通じて社会に伝播させることに関係する利害関係者、とりわけその中でも、知的成果物が生み出されて、世の中に送り届けられる一連の過程において、いわゆる「リスクマネー」を取っている者を支援しているのではないか、ということである。 これ以外の形で社会に伝播する文化的表現については、他の文化政策の手段を組み合わせねばならない。また、個々のクリエイティブ産業における「規範」や「慣習」のあり方を探ることなしには、クリエイティブ産業の支援ができないことも併せて確認された。これらの問題点については、次の検討課題として継続的に研究を進めたい。
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