研究代表者は、昨年度の著作権法学会において、本研究に関わる論点として、「私的複製」に関するシンポジウムの司会を務めたが、本年度は、その成果を、その後の判例・学説の動向も踏まえて、論文にまとめ、公表した(後述の研究発表を参照)。 また、本年度は、これまでの4年間の研究成果を踏まえ、著作権法を含む知的財産権の制度設計のあり方がどうあるべきかを、知的財産法の存在根拠に遡って検討した。本研究では、知的財産法が、一方で、個人の自律的な創作活動を支援するために不可欠な創作者の精神的、人格的利益の保護を図りつつ、他方で、創作を奨励し、産業・文化の発展に寄与するとの公益的観点から、知的財産の保護を図るという二面性を有していることを明らかにした。また、前者の意味での知的財産の保護は、表現の自由の保障等と同じく基本的価値の実現を目的とするものであるため、社会的・公益的利益に比して優先的な保護が与えられるべきであるが、後者の意味での知的財産の保護は、産業・文化政策に基づくものであるため、社会的・公益的利益と調整しつつ、合理的な範囲で保護が認められるべきものであることを論証した。また、現在の知的財産法は、法人が知的財産権の主体となることを認めているが、本研究では、法人の権利を社会的・公益的利益を実現するための手段として位置づけ、その保護内容は、産業・文化政策的な観点から合理的に決定されるべきであることを論証した。このような本研究の成果は、既に論文にまとめ、公表している(後述の研究発表参照)。 なお、本研究の成果は、知的財産権の保護範囲を考える上でも重要な示唆を提供するものである。幸いにも、研究代表者は、権利侵害判断の研究について科研費基盤研究(C)の交付内定を頂いたため、本研究終了後も、引き続き、本研究の成果を踏まえ、個別の知的財産法制のあり方についての研究を継続的に進めていきたいと考えている。
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