研究課題
本年度は、当初計画通り、ドイツ法および海外における国際的議論について、その分析をさらに深めた。ドイツにおいては、著作権法上の権利制限という本研究課題に関して、その後も少なからず研究成果が公表されており、本研究課題の重要性が国際的にも高まっていることが改めて認識された。そこで、上野はこうした議論を精査するとともに、当初計画通り、ドイツ法学における一般条項をめぐる研究や、あわせて、法解釈方法論をめぐる議論についても検討し、考察を深めた。その結果、権利制限として一般条項を設けるということは、法解釈方法論としての一般的・基礎的な理論と密接に関わるものであることを再認識した。さらに、上野は、当初の研究計画では予定されていなかったものの、オランダ法の検討を行った。ちょうど、2012年はオランダ著作権法の制定100周年であり、同年8月31日にはアムステルダムで大規模なシンポジウムも開かれたため、上野もこれに出席した。オランダ著作権法は、大陸法の中にありながら英米法的な要素も備えているという点で、わが国著作権法と類似している。本研究課題の対象である権利制限規定についても、オランダにおいては実に興味深い議論がなされている。そこで、こうした問題について、現地に赴いて、シンポジウムに参集した世界中の著名な研究者と議論できたことは、本研究にとって、当初予定を超える成果をもたらしたと考えている。また、ちょうど2012年にわが国著作権法が改正され、まさに権利制限規定が大幅に拡充された。そのため、改正法をめぐって多くのシンポジウム等が開かれ、規定のあり方や解釈をめぐって盛んな議論がなされた。その過程で、上野は、本研究の成果として、複数のシンポジウム(例:大阪大学シンポジウム〔2012年12月3日〕)に登壇したり、論考を公表するなど、本研究はすでに大きな社会貢献を果たしたものと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
上記にも記述したように、当初の研究計画を実施できたのみならず、当初の研究計画には予定されていなかったものの、(1)オランダ著作権法をめぐる興味深い最新状況を検討し、海外において著名な研究者と議論できたこと、(2)2012年のわが国著作権法改正をめぐって行われたシンポジウムなど、多くの議論に参画し、本研究成果をもとにしてすでに少なからず社会貢献が実現できたこと、から、当初の計画以上に進展していると考えている。
次年度は、当初計画通り、海外における国際的議論の調査を継続しつつ、英米法(アメリカ法・イギリス法)における著作権法上の権利制限規定について研究を深め、さらに、条約上の問題について検討する。今にして思えば、これは極めて時宜に即した有意義な方策であると考えている。というのも、まさに最近、とりわけイギリスにおいて、権利制限(例:私的複製、情報解析)について、具体的な立法論が登場しており、目下具体的な議論が盛んに展開されているからである。さらに、条約上の問題についても、まさにWIPO(世界知的所有権機関)において、権利の制限・例外に関する条約作りが行われ、これをめぐって昨今、非常に充実した議論が展開されている。こうした点からすれば、次年度において、当初計画通り、英米法の研究および条約上の問題の検討を行うことは、まことにタイミングがよいものであり、これを実行すれば明確かつ具体的な成果が上がるものと考えている。その他、研究計画を変更すべき点は特にない。
該当なし
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