平成25年度には、ハノイと東京で追加的な史資料調査を実施した。第1に、ハノイの国家図書館にて、第1次インドシナ戦争期の各種刊行物と、後年に刊行された関連書籍の調査をより一層推し進めた。この調査を踏まえ、中央政府による戦時動員の制度化の過程を把握すると同時に、戦時動員の実態が地方ごとで相異する事情を検証するという、二重の作業の精緻化を図った。第2に、ハノイの第3国家公文書館にて、越北連区(第1次インドシナ戦争期にベトナム民主共和国中央政府が設置された地方)における地方政府公文書ファイル目録を昨年度に引き続いて閲覧、筆写し、中央政府と地方政府の関係に関する公文書の把握作業を推し進めた。平成25年度の公文書調査では、中央と地方の関係が、特に動員から兵站までの一連の制度構築と関連していかに形成されたかに着目した。時間的な制約の問題があり、個別の公文書自体を閲覧するには至らなかったが、それら公文書の種類や分量、所在が詳細に把握された(例えば、財の動員の一環としての阿片の扱いに関する公文書)。他方、東京では、東京外国語大学にて、共産党関連文献の調査を追加的に実施し、それら党関連文献に示された戦時動員の規定や、党と行政機関との関係を検証した。 研究期間全体を通じて調査した史資料は、(1)第1次インドシナ戦争期に刊行された印刷物(小冊子、新聞、官報等)、(2)同戦争期の公文書や党関連資料、(3)後年に刊行された同戦争に関連する書籍(日記、回想録、地方史に関する書籍等)、(4)各地の地理的条件を知るための地理書と地図、に大別される。これら史資料の調査に基づいて戦時動員の実態の総合的分析を進めており、(A)中央政府による戦時動員の制度化、(B)戦時動員における中央と地方の関係、(C)戦時動員の地方ごとの偏差、(D)戦時動員の体制構築に与えた社会主義諸国の影響を、論稿としてまとめる最中である。
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