本年度においては、第一に、ドイツ社会民主党(SPD)の組織改革と路線転換との関係性について、90年代以降の動向を中心に、主にイギリス労働党との比較の観点から検討を進めた。その結果、特に90年代の野党期において、SPDでは組織改革が十分に進展しなかったことや、連邦制・比例代表制などの制度的特質を要因として分析を進めた。まだ第二に、これまでの研究を総括する意味でも、イギリス労働党の組織改革と路線転換との関係性と、主に2000年代におけるその変化について、再検討を進めた。その結果、イギリス労働党において90年代の路線転換を可能にした要因が、党内政策決定における「一人一票制」の導入などによる、指導部と個人党員との垂直的関係を重視する組織改革にあるとの結論に至るとともに、その改革が、2000年以降においては、草の根組織の活動の弱体化を招き、再び組織改革の論点になっていることを指摘した。これらの成果については、梅川正美他編著『現代イギリス政治(第2版)』(成文堂)所収の「労働党の理念・組織と歴史的変化」として発表した。 以上の分析によって、イギリス労働党を中心として、日本社会党・ドイツ社会民主党との比較を交えつつ、路線転換を可能とした戦略的柔軟性の成否が、それに先立つ組織改革による権力分配のあり方の変化に左右されていることを結論として得るとともに、その組織改革の成否は、党内アクター間の優越連合の形成に依存していることを、新制度論の理論枠組みなども交えつつ解明した。これらの成果を通じて、それぞれの社会民主主義政党の路線転換の失敗と成功の要因について、比較の観点から解明するとともに、社会的変化に対応しうる政党組織の在り方について、一定の問題提起を行いえたと考えられる。
|