研究の目的:本研究課題の目的は,イギリス,なかでもスコットランドにおける「マルチ・レヴェル・ガヴァナンス化」すなわちEU 化と権限移譲の進展が,ナショナル・アイデンティティの変容を介して有権者や政党・政治家の行動に生じさせている変化について,社会調査データにもとづく実証的研究を行うことであった. 研究方法:研究に当たっては,有権者の分析にあたっては,各種選挙におけるサーヴェイ・データや世論調査データを収集し(1997 年以降実施された総選挙および1999 年以降行われたスコットランド・ウェールズ地域議会選挙データ,そしてイギリス・スコットランドで毎年実施されている社会的意識調査(British Social Attitudes Survey およびScottish Social Attitudes Survey)に加え,Eurobarometer 調査,International Social Survey Program データ,European Election Survey データ,European Values Study データなど国際調査データを併用し,データ分析を行った. 分析結果:地方分権後のスコットランドの有権者においては,地域政治をイギリス政治と区別して考えたうえで,それぞれの地域におけるそれぞれの政府の業績を考慮して投票行動に反映させる傾向が強まっている.2008年以降の欧州金融危機にともなう経済後退とその後の緊縮財政をはじめとして,好ましくない統治実績はその多くがロンドン政府および全国政党の責任であり,スコットランド国民党政府の責任とはされない.さらに,そうした評価はナショナル・アイデンティティの強度によって強化されていることがわかった.
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