本研究では、移民・外国人問題の争点化に際して、移民や外国人の文化的異質性そのものよりも、受け入れ側であるホスト社会の民族構成や自国イメージを重視する。そのため考察対象である19世紀末から現代までのオーストリアを、まず国家形態ごとに、多民族国家・国民国家・超国家組織に分類し、「国家と民族の関係」を異にしている三つの異なる国家形態がいかなる自国イメージを作り上げ、そのことが文化的に異質な集団への対応や移民政策に与えた影響の相違を検討している。 本年度に進めた内容は主に以下の三点となる。第一に国内で入手可能な文献の読み込みによる基礎研究である。主として現代ヨーロッパにおける少数民族と移民問題の事例と対策に関する実例の検討ならびに移民・少数民族問題への理論的アプローチの整理、大戦間期における国家イメージの研究を行った。 第二に自国イメージに関する研究のため、国民意識および国家意識についての資料収集をオーストリア国立図書館ならびにウィーン大学図書館において行った(実施期間は平成26年1月22日から2月6日)。時間と経費の節約のため、春季の休講時期を活用した。資料は、のちの理論化を視野に入れて、1. 国家形態、2. 文化的属性とその経済的意味合い、に従って4つのカテゴリーを設けて(多民族国家期〔19世紀末から20世紀初頭〕、国民国家期:福祉国家形成以前〔大戦間期〕、国民国家期:福祉国家形成期〔第2次大戦後〕、超国家組織と国民国家の併存期〔現代〕)体系的に収集した。 第三に比較・共同研究への展開に向けて、研究打ち合わせをおこない、本研究に対する新たな視座を得ると共に、今後の新たな展開について示唆を得た。
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