研究課題/領域番号 |
23730143
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
河野 有理 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (50526465)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 市場 / 歴史叙述 / 田口卯吉 / 『日本開化小史』 / 中根淑 / 乙骨太郎乙 / 沼津兵学校 / 古典経済学 |
研究概要 |
本年度は、経済学者田口卯吉の政治思想について分析した。近代日本における社会的包摂についての政治思想の諸類型のうち、〈市場〉を中心とした秩序構想の類型が彼において最も明確に析出できると考えたためである。 ただ、当初の目論見は大幅な変更を余儀なくされた。〈市場〉を中心とする秩序構想の析出の前提として、彼が〈歴史〉についていかなるアプローチを採用しているのかが問題となったからである。彼の主著が『日本開化小史』と題する歴史書であり、他方彼の採用する経済学が、歴史経済学ではなく、市場における政府の介入を極力排除する古典経済学の立場と目し得ることから両者の関係が問題となるのである。 そこで本年度は、田口の歴史哲学の背後にある文脈を探るべく、彼の沼津時代に遡って史料を調査した。明治初年の沼津兵学校は、田口がかつて在籍していた場所であるばかりか、幕末洋学の遺産を引きついだ当時としては最先端の知的センターであったからである。具体的には、田口の漢学の教師であった中根淑(香亭)、乙骨太郎乙に関する資史料を分析し、田口の歴史思想との関連について考察した。従来、言われてきたバックルやギゾーの影響よりもむしろ、中根や乙骨等の語彙や分析枠組みが田口の『日本開化小史』に影響を与えていることがこれにより明らかになった。田口の歴史哲学を、ヨーロッパからの翻訳として捉えるのではなく、江戸期以来の歴史叙述の伝統の中で捉えなおす必要があることが判明した。 田口における〈市場〉のメカニズムへの信頼が、単に抽象的な理論の輸入ではなく、その歴史分析を踏まえたものであるとするならば、彼の歴史叙述を精査し、比較検討することで、彼の〈市場〉の秩序イメージがより立体的に把握できるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
〈市場〉を中心とする秩序構想の分析に想定していたよりも時間が取られてしまったためである。〈租税〉による再分配や、〈共同体〉による包摂といった、〈市場〉の秩序構想のオルタナティブを検討する十分な時間が取れなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の予定通り、近代日本(とりわけ明治期の)〈租税〉による再分配および〈共同体〉による包摂を軸とした秩序構想の特徴を、〈市場〉を軸としたそれとの比較において、分析していくことに務めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き明治期の租税政策および報徳運動関係の史資料の収集に当たりたい。そのためには沼津や報徳運動が盛んだった静岡などに現地調査に向かうことを予定している。また、その際には現在も行われている報徳運動の関係者への聞き取りが、もし可能なら、行えればと考えている。
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