研究課題/領域番号 |
23730143
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
河野 有理 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (50526465)
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キーワード | 田口卯吉 / 市場社会 / 歴史叙述 / 封建・郡県 / 徳 / 分権 |
研究概要 |
本年度も昨年度に引き続き、経済学者田口卯吉の政治思想について分析した。近代日本における社会的包摂についての政治思想の諸類型のうち、〈市場〉を中心とした秩序構想の類型が彼において最も明確に析出できると考えているためである。 当初の目論見はまたもや大幅な変更を余儀なくされた。田口の政治思想の輪郭をそれ自体として世に問うことにしたためである(本課題との関係では中間報告的な意味合いを持つことになろう)。そのための作業に忙殺された一年となった。田口の政治思想の輪郭について、本研究の目的と照らし、その意義について以下述べる。 田口の政治思想は、ある意味で、単純である。市場の自律性を尊重し、政府の介入をそうした市場の自律性を妨げるものと見る、経済的な自由主義と通常呼ばれる立場がそれである。 この単純で一貫した彼の思想的立場は、それ故に、思想史家――単純で一貫した人物よりは、複雑で変化を繰り返す人物に惹かれがちである――の興味を引くことは少なかった。だが、彼が生きた明治初期・中期の政治的・経済的環境の激変を思えば、彼がその生涯を通じて単純で一貫した思想を維持しえたこと、それ自体がむしろ問うべき問題となるだろう。 単純で一貫した思想を維持するために彼が格闘した現実や思潮は、単純ではなかった。それゆえ、その格闘もまた単純なものではありえなかった。単純で一貫した彼の思想の結果のみならず、そうしたものを生み出した過程に着目することで、田口の政治思想の新たな側面を浮かび上がらせること。それが本年度の研究の主たる狙いであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上でも述べたように、田口の政治思想の新たな側面を明らかにするという、本研究の基礎的な課題を、出版という形にするために思わぬ時間を費やしたためである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の予定通り、近代日本(とりわけ明治期の)〈租税〉による再分配および〈共同体〉による包摂を軸とした秩序構想の特徴を、〈市場〉を軸としたそれとの比較において、分析していくことに務めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き明治期の租税政策および報徳運動関係の史資料の収集に当たりたい。そのためには沼津や報徳運動が盛んだった静岡などに現地調査に向かうことを予定している。また、その際には現在も行われている報徳運動の関係者への聞き取りが、もし可能なら、行えればと考えている。なお、繰り越し分については、購入予定の資料を次年度に持ち越したために発生した。
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