研究課題/領域番号 |
23730147
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
荒井 紀一郎 中央大学, 総合政策学部, 助教 (80548157)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 政治学 / 社会心理学 / 実験経済学 / 社会的ジレンマ |
研究概要 |
平成23年度は、以下2段階の計画を実施した。まず、23年度前半に第1段階として、アクターの所属集団に対する帰属意識の変化が、公共財供給ゲーム実験において政治的な協力行動を選択する確率に与える影響をモデル化し、このモデルを検証するための実験室実験の設計を行った。設計にあたっては、研究協力者の村上剛、Fred Cutler両氏(共にブリティッシュコロンビア大学)からの助言を受け、日本とカナダ両国で実施することのできる実験デザインを目指した。第1段階で設計した実験デザインに基づいて、23年度後半には、日本とカナダで実験室実験を実施した。被験者は実験を実施する大学(日本:中央大学、カナダ:ブリティッシュコロンビア大学)の学部生を対象に募集し、日本、カナダそれぞれ約100人が被験者として参加した。実験の結果、所属集団に対して高い帰属意識を有してる被験者ほど、社会的ジレンマ状況におかれても協力することを選択することがわかった。しかしながら、その効果は被験者が他のメンバーの行動がわかる状況であったかどうかによって大きく異なるということも明らかとなった。具体的には、所属集団に対して高い帰属意識をもった被験者は、他のメンバーの行動が把握できても、できなくても協力率は高かったが、中程度の帰属意識を有した被験者は、他のメンバーの行動が把握できない場合の方が、把握できた場合よりも一貫して協力率が高くなった。この傾向は、他のメンバー全員が協力を選択していることを把握していても同じであり、被験者が戦略的にフリーライドしようとした可能性がうかがえる。これらの研究成果は論文としてまとめ、平成24年5月にシカゴで実施される中西部政治学会(MPSA)および6月にカナダで実施されるカナダ政治学会(CPSA)で報告し、討論者および出席者からのコメントをうけて、今後の研究計画に適宜反映させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、民主主義の下で有権者をはじめとした政治アクターが、社会的ジレンマを乗り越えた上で多数派を形成して、様々な政治行動を行うメカニズムを政治心理学的な観点、特にアクター自身が所属していると認識する集団に対する帰属意識に着目して解明することにあった。この目的を達成するために、平成23年度は実験室実験の設計と、日本・カナダ両国での実験の実施を計画し、概ねスケジュール通りに実施することができた。実験デザインの設計にあたっては、研究協力者からの助言を受けて当初の予定よりも複雑なものとなった結果、予定よりも多くの時間がかかったものの、両国での実験は年度後半にスケジュール通りに実施することができ、実験結果についても、概ね当初の仮説を支持するものであった。しかしながら、当初想定していたメカニズムからは説明できないような実験結果もいくつか存在するため、次年度前半に追加で実験を実施するとともに、学会や研究会での報告を通じて、様々な研究者からのコメントを受けることによって、より普遍的なモデルの構築を目指す必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度で実施した実験室実験で得られた結果を基にして、インターネットを用いた調査実験を日本およびカナダで実施する。この調査実験では、個人が帰属意識を持っている集団の種類の違いや、帰属意識に影響を及ぼすと考えられる社会的なコンテクストとの相互作用が、協力行動に与える影響を検証し、「どのような社会的コンテクストに政治アクターがおかれると、帰属意識の変化が協力行動に及ぼす効果が強まる(あるいは弱まる)のか」を明らかにする。また、インターネット調査はサンプルの代表性に問題が生じることがあるため、サンプルを補正するための郵送調査も同時に実施する予定である。平成24年度後半には、国内外で実施される学会や国際シンポジウム等にて、それまでに得られた分析結果を報告し、討論者や会場からのコメントをもとに今後の研究計画の遂行にあたって必要な修正などを行う予定である。研究最終年度となる平成25年度前半には、平成23年度に実施予定の実験室実験、および平成24年度実施予定の調査実験で明らかになった知見にもとづいて、帰属意識の変動が協力行動を規定する最終的な行動モデルを構築し、この行動メカニズムを持つアクターが、選挙制度や政党システムといった民主主義を構成する様々な要素や地域社会の構造(例えば、人種構成や世代構成、産業構造など)とどのように相互作用を引き起こすのか、言い換えれば、このような制度が異なると、彼らの行動パターンや社会全体の様子はどのように変動するのかをマルチエージェントシミュレーションを用いることで明らかにする。そして平成25年度後半には、これまでに得られた知見をふまえた上で、社会的ジレンマ状況のもとでフリーライドを抑制(あるいは促進)させ、人々の協力行動を促進(あるいは抑制)させる制度的な条件や政策について提起し、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に予定している研究計画のうち、もっとも多くの費用を見積もっているものは、日本とカナダで実施する予定のインターネット調査実験委託費である。サンプル数はそれぞれ2000名を予定しており、どちらも調査会社に登録している調査モニターから回答候補者をリクルートする。調査費用は、日本で40万円、カナダで50万円を予定している。なお、本調査ではサーバーや回答システムを研究者自身で準備することで、委託費用を抑える予定である。これらに加え、本年度はインターネット調査のサンプルを補正するための郵送調査を計画している。郵送調査は、調査対象地区の選挙人名簿抄本から無作為に回答候補者を抽出することで、代表性のあるサンプルを確保し、インターネット調査でのサンプルを補正することを目的としている。郵送調査のサンプリングは既に終えており、本年度は調査票の郵送費(10万円)および回答者に対する謝礼費(ボールペン、5万円)を予定している。
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