平成25年度は、まず前年度に実施した実験にて、有権者の政策選好と仮想の政治的なイベントとの相互作用によって民主主義システムに対する満足度が変化することが明らかになったため、具体的な政策選好の多様性を測定し、実際の政治イベントが発生した後に再度同じ政策についての選好を測定し、その変化を分析した。分析の結果、有権者の性別や年代といった属性の違いによって、政治イベントへの反応が大きく異なることが明らかになった。属性の違いがもたらす反応の大きさの違いは、有権者が保持している態度(保革イデオロギー位置など)や政治的洗練性の違いがもたらす反応の大きさの違いよりも明確にあらわれており、今後、追跡調査を実施することで政治イベントによって有権者の選好が形成・変化していく過程を明らかにすることができると考えられる。この成果は、平成25年8月に開催されたAPSAの年次大会で報告をおこなうとともに、国内の学術誌に掲載された。本研究課題によって得られた知見をまとめると、社会的ジレンマにおかれた有権者の行動とその帰結から形成される行動習慣や政治的態度は、以下3つのパターンに分類することができる。まず、自身の政策選好どおりに行動する市民が選挙での勝利を経験していくと、彼らの党派に対する帰属意識が高まるとともに、民主主義的な政治システムに対する満足度が上がり、習慣的に政治的活動に参加するようになる。しかしながら、同じように自身の政策選好どおりに行動しても、若い頃に選挙での勝利を経験できない市民は習慣的棄権者となり、党派に対する帰属意識や民主主義システムへの満足度などが下がってしまう。最後に、勝ち馬に乗ろうとして自分の政策選好とは異なる行動を選択した市民については、政治的態度に大きな変化はなく、特定の行動が習慣化されることもない。これらの研究成果は、学術書としてまとめられ平成26年2月に刊行された。
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