研究課題/領域番号 |
23730154
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 福祉国家再編 / オーストラリア / 日本 / 言説の政治 / 雇用保障重視型の福祉国家 / 自由主義化 |
研究概要 |
2011年度は、これまでの研究成果をふまえ、以下の三点に重点を置いて、研究を行った。 まず第一に、比較政治経済学の最新業績を手がかりに、福祉国家再編プロセスを分析するための理論枠組について検討した。特に、制度変容の複雑性を明らかにするため、新制度論における制度変化に関する議論を批判的に検討し、また福祉国家における家族政策の変容を明らかにするため、ジェンダー研究による福祉国家分析の議論の到達点を整理することで、以前の研究で提示した理論枠組の刷新を行った。 第二に、オーストラリアにおける福祉国家再編の詳細な経験分析を行うための準備作業を進めた。これまでの研究成果をふまえて、ホーク労働党政権における「Accord」の導入プロセス、キーティング労働党政権における「Working Nation」の導入プロセス、および、ハワード連立政権における「職場選択法」の導入プロセスに注目して、文献および一次資料を読み進め、政治的ダイナミズムの解明に取り組んだ。 第三に、日本における福祉国家再編に関する先行研究を批判的に検討し、その意義と限界を明らかにした。国内外の政治学者による研究だけでなく、社会学や経済学など関連した社会諸科学の業績にも注目して、その到達点を整理し、まだ十分に解明されていない論点を明らかにした。 2011年度は、これらの三点に重点を置いて研究を進めた結果、単著一冊(『福祉国家再編の政治学的分析』、御茶の水書房)および論文二本(「福祉国家再編分析におけるアイデア・利益・制度(2)(3)」、『北大法学論集』)という研究成果を残すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、理論研究および実証分析のそれぞれの課題に関して、概ね研究計画通りに進めることができている。 まず第一に、理論研究として、当初の計画では、初年度に、「特徴把握」および「動態の説明」という福祉国家再編分析に必要となる二つの理論枠組を提示することを予定していた。この点については、ジェンダー研究による福祉国家分析の知見をふまえた「特徴把握」のための理論枠組、および、新制度論の理論的刷新をふまえた「動態の説明」のための理論枠組を提示することができた。 第二に、実証分析として、当初の計画では、現地調査による資料収集および分析に向けた準備作業を行うことを予定していた。この点については、まずオーストラリアに関しては、実際に現地に行き、資料収集を行うだけでなく、現地の研究者から聞き取り調査を行うことで、議論状況を把握することができた。また、日本に関しては、国内外の先行研究を整理することで、その到達点と課題を明らかにすることができた。 このように、2011年度は、理論研究および実証分析の両課題に関して、研究計画通りに進めることができた。今後は、2011年度の研究成果をふまえ、より一層研究に励んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度は、当初の研究計画では資料収集のためにオーストラリアを訪問する予定であった。しかし、別の予算でオーストラリア出張に行く機会を得たため、研究費に未使用額が生じた。今後の研究については、基本的に研究計画に沿った形で進めて行く予定だが、未使用額分は、他の研究者と議論をする場を多く設けるなど、有効に活用していきたい。 まず理論研究に関しては、国内の学会や研究会などで報告する場を得て、2011年度の成果である新たな理論枠組の妥当性に関して、他の研究者と議論を行い、「特徴把握」および「動態の説明」のための、より精緻化した理論枠組を提出していきたい。また、オーストラリアに行き、現地の研究者と、日本とオーストラリアの再編を比較分析することの意義について、ディスカッションを行いたい。 実証分析として、まずオーストラリアに関しては、2011年度に集めた資料・文献をもとに、再編プロセスの政治的ダイナミズムを明らかにしたい。特に、労働党政権における「Accord」と「Working Nation」の導入プロセス、および、連立政権における「職場選択法」の導入プロセスに重点を置きたい。日本に関しては、先行研究の批判的検討を通して得られた論点の考察を深めていきたい。特に、90年代以降の労働市場政策および社会政策における自由主義化の背景や政治的ダイナミズムを明らかにしたい。 また、理論研究と実証分析のいずれかに特化するのではなく、両者の相互作用を常に念頭に置きながら、各課題において得られた知見を、フィードバックさせていくことに心がけていきたい。 2012年度以降は、研究計画に沿って、上記のような形で研究を遂行していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度は、当初の研究計画では資料収集のためにオーストラリアを訪問する予定であった。しかし、別の予算でオーストラリア出張に行く機会を得たため、研究費に未使用額が生じた。今後は、研究遂行のための文献購入費および学会参加のための旅費を充実させる一方で、基本的には研究計画に沿った形で進めていきたいと考えている。 まず理論研究を進めていくためには、比較政治経済学の最新業績の到達点を把握している必要があり、そのためには英語文献を中心とした研究業績を購入する必要がある。また、2011年度の研究成果である理論枠組の妥当性に関して、他の研究者とディスカッションを行うため、関連する学会や研究会に参加する必要があり、旅費も必要となる。 実証分析を進めていくためには、まず両国の福祉国家再編に関する議論状況を把握する必要がある。そのため、邦語文献だけでなく、英語文献における最新の研究業績を入手する必要がある。またオーストラリアの議論状況に関しては、現地の学会に参加し、研究者から聞き取り調査を行うことも有益といえる。次に、再編プロセスの政治的ダイナミズムを明らかにするためには、文献以外の資料も必要となる。そのため、オーストラリアに行き、国立図書館や政党を訪問し、新聞やパンフレット、議事録などの一次資料を収集する必要がある。また日本の再編プロセスの特徴を整理する上では、関係者から聞き取り調査を行うことも有効となる。このように、実証分析を進めていくためには、資料収集や聞き取り調査を行う必要があり、そのための旅費が必要となる。 以上のように、2012年度も、理論研究および実証分析という課題を効率的に遂行するため、文献購入や旅費を中心に、研究費を利用していきたい。
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