研究課題/領域番号 |
23730154
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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キーワード | 比較政治理論 / 比較福祉国家論 / 福祉国家再編 / オーストラリア / 日本 / 社会政策 / 移民・入国管理政策 |
研究概要 |
2012年度は、前年度までの研究成果をふまえ、以下の三点に重点を置いて研究を行った。第一に、理論研究として、比較福祉国家論の理論的到達点と課題を検討し、今後の理論的展望を明らかにした。特に、近年の研究では十分に扱われていない「福祉国家」の定義について批判的検討を行い、その概念に関する理解を深める一方で、福祉国家再編のダイナミズムを把握するための理論枠組として、アイデア・利益・制度の相互作用に注目するモデルを提示した。 第二に、オーストラリアにおける福祉国家再編に関して、社会政策と移民政策の変容という観点から分析を進めた。前年度の研究成果として、社会政策の変容に注目するだけでは、福祉国家が果たしていた社会・政治統合のパターンの変化が十分に捉えられないことが分かったため、12年度は社会政策に加え、移民政策の変容にも注目して、再編プロセスを分析した。再商品化政策と多文化主義政策の多様性について整理した上で、ホーク・キーティング労働党政権とハワード連立政権の特徴を明らかにした。 第三に、日本における福祉国家再編に関して、社会政策と入国管理・移民政策の変容という観点から分析を進めていくための準備作業を行った。オーストラリアとの比較をより有益なものにするため、日本についても社会政策と移民政策の変容という観点から分析を行うことにした。そのため、本年度は、1990年代以降の社会政策の変容に重点を置いて研究を進める一方で、入国管理・移民政策の歴史的展開についての理解を深めた。 2012年度は、上記の三点に重点を置いて研究を進めた結果、邦語論文二本と英語論文一本という研究成果を残すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、理論研究および実証分析のそれぞれの課題に関して、概ね研究計画通りに進めることができている。 第一に、理論研究として、福祉国家再編分析のための二つの理論枠組を精緻化した。まず、福祉国家の定義について批判的に検討を行い、概念についての理解を深めることで、「特徴把握」のための理論枠組を精緻化した。そして、比較政治経済学の諸議論を批判的に検討し、アイデア・利益・制度の相互作用に注目するモデルを提示することで、「動態の説明」のための理論枠組を刷新した。 第二に、実証分析として、福祉国家の変容に伴い生じている社会統合のパターンの変化を捉えるために、社会政策だけでなく、移民政策の変容にも注目することにした。まず先行研究を整理することで、オーストラリアと日本における移民政策の歴史的展開について理解を深めた。そして、移民政策の変容という視点を盛り込むことで、社会政策の変容に関するこれまでの研究成果を再整理した。 以上のように、2012年度は、理論研究および実証分析の両課題に関して、概ね計画通りに研究を進めることができた。今後はこれまでの研究成果をふまえ、より一層研究に励んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は、当初の研究計画では資料収集や現地研究者との議論のために、オーストラリアを訪問する予定であった。しかし、出張を予定していた時期に、国際会議(中国・チナン大学)にて、これまでの研究成果を発表する機会を得たため、本年度はオーストラリア出張を断念した。そのため、研究費に未使用額が生じてしまった。今後の研究については、基本的に研究計画に沿った形で進めて行く予定だが、未使用額分については、国内外の学会・研究会や国際会議など、他の研究者と議論する場に参加するために、重点を置いて利用していきたい。 理論研究に関しては、国内の学会や研究会などで報告する場を得て、これまでの研究成果である福祉国家再編分析のための二つの理論枠組の妥当性について、他の研究者と議論を行い、修正や精緻化を行いたい。その際には、政治学における比較福祉国家論の理論枠組としての意義と問題点を明らかにするため、政治学者だけでなく、近接する社会科学者と積極的に議論を行いたい。 実証分析に関しては、社会政策に加え、移民政策の変容という観点からも分析を行っていくため、オーストラリアと日本の両国に関する福祉国家研究者だけでなく、移民政策研究者とも積極的に議論を行い、自らの研究の課題や問題点を明らかにしたい。また、移民政策に関する文献や資料を収集し、現地の研究者と議論を行うために、オーストラリアを訪問したい。 できるだけ早い段階で、他の研究者と議論することを通じて、実証分析上の課題を明確にした上で、刷新した理論枠組をもとに、オーストラリアと日本における福祉国家再編の比較分析を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度は、当初の研究計画では、資料収集および現地研究者との議論のためにオーストラリアを訪問する予定であった。しかし、出張を予定していた時期に国際会議で報告する機会を得たために、オーストラリア出張を断念することになり、研究費に未使用額が生じた。今後は、基本的に研究計画に沿いつつ、他の研究者と議論する機会を増やすことを目的に、学会・研究会に参加するための旅費を充実させ、また移民政策関連の文献を収集するための文献購入費を充実させる形で、研究費を執行していきたい。 まず理論研究を進めていくためには、比較政治経済学の最新業績の到達点を把握している必要があり、そのためには英語文献を中心とした研究業績を購入する必要がある。また理論枠組の妥当性に関して、他の研究者と議論を行うため、関連する学会・研究会に積極的に参加したい。 そして、社会政策と移民政策の変容という観点から実証分析を進めていくためには、両国における福祉国家再編と移民政策の歴史的展開のそれぞれに関する議論状況を把握する必要がある。そのため、邦語文献だけでなく、英語文献における研究業績や一次資料を入手する必要がある。また、自らの研究の課題や問題点を明らかにするためには、国内外の福祉国家研究者および移民政策研究者と議論を行うことが有益といえる。したがって、実証分析を効率的に進めていくためには、先行研究の到達点を把握するための文献購入費、および、オーストラリアでの資料収集や国内外の研究者と議論を行う必要があり、そのための旅費が必要となる。 以上のように、2013年度も、理論研究および実証分析という課題を効率的に遂行するため、文献購入や旅費を中心に研究費を利用していきたい。
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