研究課題/領域番号 |
23730154
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
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キーワード | 福祉国家再編 / 比較福祉国家論 / 日豪比較 / 政治学的分析のための理論枠組 / 社会政策と移民政策の変容 |
研究概要 |
2013年度は、これまでの研究成果をふまえて、以下の二点に重点を置いて研究を行った。 第一に、理論研究として、多様性を示す福祉国家再編プロセスを政治学的に分析するための理論枠組に関して、再検討を行った。そこでは、既存の理論枠組の多くが「政治の重要性」の中でも「目標達成局面」に注目する一方で、「目標設定局面」を十分に射程に収めることができていなかったことを指摘し、両局面を分析するために「社会-政治関係の二段階性」に注目する必要を明らかにし、新たなモデルを提示した。 第二に、経験分析として、日本とオーストラリアにおける社会政策の変容を、移民政策の展開との関係を考慮に入れながら、考察を行った。両国では経済のグローバル化の進展とポスト工業社会への移行という文脈において、社会政策の領域では「再商品化」、移民政策の領域では「経済的貢献」が注目を集めるという共通性を持つ一方で、各政策領域には多様性が存在していること(例、社会政策:狭義のワークフェアとアクティベーション、移民政策:文化的多様性の経済効果の強調と選択的受け入れ)、および、政策対応を正当化する政治言説に大きな差異(例、新たな政治的アイデンティティの構築と伝統的価値の強調)があることを明らかにした。 以上の研究成果として、2013年度は、論文4本(「福祉政治の理論」、「オーストラリアとニュージーランドにおける福祉国家再編」、「福祉国家と移民政策」、「Welfare States Transformations and Immigrations in Japan and Australia」)を発表した。 今後は、理論研究で提示したモデルを基礎として、両国における福祉国家の再編過程を、一次資料などを利用して実証的に分析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来では2013年度が研究期間の最終年度であったが、研究を遂行していく中で、日本とオーストラリアにおける福祉国家再編の特徴、および、その政治的メカニズムを解明するという目的を達成する上では、比較福祉国家論において従来から注目されてきた政策領域(社会政策や雇用政策など)の変化だけでなく、移民政策の変容も追加的に考察する必要があることが分かった。 そこで、2013年度は、両国における社会政策や雇用政策の変容を分析するだけでなく、移民研究や国際社会学における重要な先行研究を読み進めた。その結果、移民政策に関する議論状況や両国における移民政策の展開を把握・理解することができたが、理論研究において自らが提示したモデルに基づいた実証分析まで進むことはできなかった。 今後は、理論研究で提示したモデルをもとに、社会政策の展開と移民政策の変容に注目して、政策対応を正当化する政治言説を明らかにしていくことを通じて、両国における福祉国家再編の特徴と政治的メカニズムを解明していく。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでの研究成果をふまえて、以下の二点に重点をおいて研究を進めていく。第一に、理論研究として、社会政策の展開と移民政策の変容を統合的に考察するために、社会統合のあり方に関する理論枠組を構築する。ここでは、比較福祉国家論だけでなく、多文化主義研究や規範的な政治理論の知見も手がかりにしながら、社会統合のパターンの整理および類型化を行う。 第二に、経験分析として、理論研究の成果および端緒的な事例分析の知見を手がかりに、議事録および政党の政策綱領や選挙公約などの一次資料を用いて、日本とオーストラリアにおける福祉国家再編の特徴および政治的メカニズムを解明していく。必要に応じて、インタビュー調査なども行いたい。 以上のように、取り組むべき研究課題はまだ残されているが、理論研究と経験分析の相乗効果を意識することによって、効率的に研究を遂行していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定では2013年度中にオーストラリアを訪問し、これまでの研究成果に関して、現地の研究者と意見交換を行う予定であったが、研究を遂行していく中で、日本とオーストラリアの福祉国家再編の特徴および政治的メカニズムを解明する上では、社会政策の変化だけでなく、移民政策の展開もふまえた形で考察することが有益であることが分かった。そこで2013年度は、まず移民政策に関する議論状況を把握するために、移民研究や国際社会学などに関する研究を進めた上で、そこでの知見をふまえた形で、これまでの研究成果をまとめ直す作業に重点を置いた。そのため、研究成果に関する意見交換のためのオーストラリア訪問を延期せざるを得なかった。 2014年度は、まず理論研究で提示したモデルをもとに、社会政策の展開と移民政策の変容に注目して、政策対応を正当化する政治言説を明らかにしていくことを通じて、両国における福祉国家再編の特徴と政治的メカニズムを解明した上で、次にオーストラリアを訪問し、研究成果に関して現地の研究者と意見交換を行い、最終的な研究成果の取りまとめ作業を行う。
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