最終年度となる2014年度は、これまでの研究成果をふまえて、不足していた部分を補うこと、および、成果全体を取りまとめることに力点を置いて作業を進めた。 まず不足していた点を補う作業として、日豪の福祉国家再編の特徴と政治的ダイナミズムを明らかにするため、社会政策と雇用政策の変容だけでなく、移民政策の転換や諸領域の政策変化を正統化する政治言説にも注目して分析を行った。両国の共通点には、社会政策と雇用政策に関する「再商品化」の促進、雇用政策に関する「経済的貢献」の強調、そして、政治言説として「ナショナルアイデンティティの再定義」がある。他方で、両国の各政権ごとに、差異も存在している(例、再商品化に関して、狭義のワークフェアからアクティベーションまで、経済的貢献に関して、高技能労働者の積極的受け入れから非経済移民の制限まで、政治言説に関して、伝統や権威の強調から新たなアイデンティティの構築まで)。そして、これらの多様性をもたらした要因として、グローバル化とポスト工業化の進展という文脈において、政治制度および政策遺産に規定されながらも新たな社会統合を構築しようとした政治主体の相互行為がある。 次に成果全体を取りまとめる作業として、比較福祉国家論の批判的検討および日豪の比較分析を通じて得られた知見を、現代政治学一般に位置づける作業を行った。本研究の成果は、政治経済システムとしての現代国家の変容(福祉-国民国家から競争-ポスト国民国家へ)、政治分析モデルとしてのアイディアアプローチの重要性(アイディアを媒介とした構造と行為主体の共時的・通時的連関への注目)、社会統合の変遷とその課題(再分配の強調から主体性の強調による支持調達へ)などの点で、現代政治学に貢献が期待できる。 これらの作業の一部は、すでに論文および研究報告として公表しているが、未発表部分については迅速に発信していきたい。
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