研究課題/領域番号 |
23730155
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
西山 隆行 甲南大学, 法学部, 教授 (30388756)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | アメリカ / 犯罪政策 / 連邦制 |
研究概要 |
研究プロジェクト1年目に当たる2011年度は、アメリカの犯罪政策、ならびに連邦制についての基礎研究を中心に実施した。 犯罪政策については文献調査にあわせて、アメリカ犯罪学会等に参加し、アメリカの犯罪政策研究の最新動向を調査した。また、2012年はアメリカ大統領選挙の年に当たるため、そこで争点になっている移民問題と関連させつつ、「米墨国境政策―麻薬、不法移民とテロ対策」と題する報告を2012年3月に東京財団「現代アメリカ」プロジェクト内政チームで行った。当該報告は犯罪政策の中でも麻薬政策とテロ対策にとりわけ焦点を当てつつ、連邦政府と州以下の政府の対応の相違という連邦制の問題と絡めて分析を行っており、2012年秋に共著書として公刊することになっている。また、平凡社から2012年4月に公刊された『アメリカを知る事典 新版』に「銃規制」「ミーガン法」「全米ライフル協会」など、アメリカの犯罪政策を理解する上で必要不可欠な重要項目を執筆している。さらには、ミネルヴァ書房から『警察』と題する共著も出版している。 後者の連邦制については、基礎文献調査を行うと共に、その成果をアメリカの移民に対する社会福祉給付の問題と関連づけて「アメリカの福祉国家と移民」と題する論文として『甲南法学』第52巻3・4号で発表している。アメリカでは一般的に州以下の政府で発生した政策革新を基にして連邦政府が政策革新を達成する場合が多いが、政策領域によってはその原則が当てはまらないことを指摘した点で、アメリカの連邦制と政策過程の関係の理論化を進めている。また、犯罪政策の所であげた「米墨国境政策」報告も、麻薬政策とテロ対策を素材としつつ、連邦政府と州以下の政府の立場の違いについて考察しており、連邦制についての理論化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時には、2011年度は犯罪政策と連邦制についての先行研究のサーヴェイと、基礎的な理論研究を実施する予定であったが、2012年がアメリカ大統領選挙の年に当たることもあって、本プロジェクトのテーマと関連する時事問題についての報告や原稿を依頼される事が多かった。それ故に、後年度に着手する予定であった事例研究を先に実施せざるを得なくなったため、当初の研究計画で執筆する予定であった理論的な論文を単独で執筆することができなかった。この点については、不満が残っていることは事実である。 とはいえ、2011年度はアメリカ政治学会とアメリカ犯罪学会への参加と先行文献の読み込みを行った結果として、理論的な理解と考察を深めることで、2012年度以降の研究の基礎を築くことができた。また、本プロジェクトは犯罪政策や連邦制に関する理論研究と事例分析を架橋することを目指しており、その観点からすると、理論に関する最新動向調査、既存研究の読み込みと、具体的な事例研究を並行して行った結果、先行研究で示されていた理論枠組みの問題点をより明確にすることができた。これは後の研究にとってきわめて大きな意味を持っていると考えている。 以上のように、2011年度は申請時の計画とは異なる道筋を辿ってはいるものの、最終年度までに行う研究の全体像から考えれば一定の成果を生み出していると言うことができ、現在までの達成度は概ね順調だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度以降は、2011年に行った研究を踏まえて、具体的な事例研究を継続して実施する予定である。2012年のアメリカの大統領選挙では移民対策が大きな争点となっているが、麻薬問題やテロ対策とも深く関連している結果として、議論が複雑になっている。これらの犯罪対策については、連邦政府と州以下の政府では望ましい対策、採ることのできる対策が全く異なっているために、大統領選挙と連邦議会選挙の選挙過程でこれらのトピックがどのような位置づけを与えられているかを調査することで、本研究プロジェクトの内容を深化させたい。 また、アメリカの犯罪政策を理解する上で重要なアクターである全米ライフル協会やACLUなどは大統領選挙と連邦議会選挙に際して様々な働きかけを行うことで知られている。それらのアクターの動向もあわせて追うことで、犯罪政策の中でも複数の政策領域(麻薬対策、テロ対策、銃規制、警察による取締り政策と市民的自由)で、政治過程にそれぞれどのようなパターンが表れてくるのかを、連邦制の問題とも絡めながら検討することにしたい。 具体的な研究の実施方法としては、それぞれのトピックについての先行研究調査、新聞や雑誌記事の調査と合わせて、9月にニューオリンズで行われるアメリカ政治学会、ないしは11月にボストンで行われる北東部アメリカ政治学会に参加し、最新の研究動向を踏まえた上で研究者へのインタヴューも実施する予定である。 上記の内容を踏まえて、2012年度には麻薬対策、市民的自由に関する理論的な原稿を執筆したい。その枠組みに基づいて、2013年度以降には主要都市での現地調査を行うことにしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年は、先に記したとおり、文献調査と新聞・雑誌等の読み込み、アメリカで実施される学会への参加とインタビュー調査が研究の中心となる予定である。従って、研究費の多くの部分が、書籍の購入費用と出張旅費に当てられることになる。場合によってはインタビューの対象者への謝礼が発生する可能性もある。また、アメリカで日本で入手困難な資料の収集を行う可能性も高く、印刷経費やその輸送費用等も必要になる。さらには、可能であれば、これまでに行ってきた研究の理論枠組みについて英語でペーパーを作成したいと考えており、その英文チェックのための謝金が発生する可能性もある。
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