研究課題/領域番号 |
23730155
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
西山 隆行 甲南大学, 法学部, 教授 (30388756)
|
キーワード | アメリカ / アメリカ政治 / 犯罪政策 / 連邦制 / 麻薬 / 銃規制 |
研究概要 |
アメリカの犯罪政策をめぐる対立が現在最も顕著に表れているのが、米墨国境付近の秩序維持をめぐる問題への対応である。厳罰化を推進しようとする連邦政府と、選挙の際には厳罰化を主張するものの実際の対応では穏健な行動をとらざるを得ない州以下の政府の違いについて、とりわけ、不法移民問題、麻薬問題、テロ対策を念頭に置きながら、久保文明・松岡泰・西山隆行+東京財団『現代アメリカ』プロジェクト編『マイノリティが変えるアメリカ政治―多民族社会の現状と将来』(NTT出版、2012年)内の「移民政策と米墨国境問題―不法移民、麻薬、テロ対策」で分析を行った。また、2012年の大統領選挙でその問題にどのような位置づけが与えられたかについては、「2012年アメリカ大統領選挙とマイノリティ―政党政治のゆくえ」『甲南法学』第53巻4号(2013年)で言及した(なお、この点については2012年11月に東京財団フォーラムで講演を行い、成果を社会にも還元した)。この論点をさらに掘り下げて2013年度のアメリカ学会で報告することになっており、そのための調査も併せて実施している。 2012年は、マリファナの合法化をめぐる問題が複数の州で大争点になるとともに、銃乱射事件をきっかけとして銃規制の在り方が様々な次元で議論された。これらについては未だ原稿を完成させる段階には至っていないものの、各種資料を集めて分析を行っている。その過程で得られた知見については、2013年度のうちに、何らかの形で学術論文として発表することにしたい。 研究テーマのうち連邦制に関する事柄については、社会福祉政策との関連で連邦制の持つ政治的機能について考察を行った原稿を執筆しており、2013年の夏ごろにある論文集の中で公刊されることが決まっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度は、当該プロジェクトと深く関わりのある刊行物としては、共編著一冊、学術論文一本と、若干物足りない状況となっている(ただし、プロジェクトの成果を一部利用した学術論文は他にも刊行している)。それは、2012年度中に、アメリカの複数の州でマリファナの合法化をめぐる法律改正がなされたこと、また、銃乱射事件が発生したことに伴い銃規制問題が突如として大争点として持ち上がったこと、という予期せぬ事態が年度後半に連続して発生し、その情報収集に追われたためである。薬物規制と銃規制についての理論的な研究は進行しており、当初計画通り2012年度中に論文を公刊することはできなかったものの、その結果として、かえって現実状況に根差した研究を行うことができた。実際、社会秩序維持を実現するための犯罪政策の在り方についての理論的な原稿は執筆中であり、2013年度中に何らかの形で公刊できると確信している。 また、当初計画では米墨国境地域における秩序維持の問題についてはさほど力点を置いた調査をする予定ではなかったが、こちらも2012年の大統領選挙の大争点として持ち上がったこともあって、当初予定していた以上に力点を置いて調査を行った。この点については、2013年6月のアメリカ学会で報告を行い、それを踏まえて学術論文を公刊する予定となっている。 このように、当初予定とは若干前後する部分はあるものの、プロジェクト終了期限までに行うべき作業は着々と進められており、その点から、現在までのプロジェクトはおおむね順調に進展していると評価することができる。
|
今後の研究の推進方策 |
2013年度は、まずは米墨国境周辺における秩序維持政策を、テロ対策と麻薬問題に力点を当てつつ現状をもとに分析を行い、6月に行われるアメリカ学会で報告した上で、学術論文として公刊する。続いて、2012年度中に実施していた社会秩序維持と連邦制に関する問題についての調査の結果を学術論文として執筆し、年度中になんらかの媒体で発表する予定である。 これまでの調査で、連邦政府の犯罪問題についての対応策については一定程度の文献と資料を渉猟することができているため、今後は州と地方政府の犯罪問題についての対応についての調査に力点を置いて研究を実施する。具体的には、犯罪問題が大争点として政治を規定していたニューヨーク市とシカゴ市、また、大麻合法化が突如として争点に上がったシアトル市などで資料調査を行い、連邦政府との対応の相違について理論的かつ実証的な学術論文を執筆する予定である。 銃規制に関する調査、並びに論文執筆も行う予定であるが、2012年度中盤から、当初の想定を超えてこの問題は一大争点として浮上している。随時、銃規制をめぐる動向をフォローしつつ、アメリカ合衆国憲法の規定やこれまでの経緯を踏まえながら、ジャーナリスティックな分析とは一線を画した学術論文の執筆を行う予定である。 最後に、連邦制に関しては、犯罪政策のみならず他の政策分野においても連邦政府と州以下の政府で異なる対応がみられるのが一般化しており、その点についての理論的分析も並行して実施していきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、歴史的に犯罪多発地域であり、独自の犯罪対策をとってきたニューヨーク市、シカゴ市、シアトル市で現地調査を行う予定であり、そのため、研究費の中でも海外出張費が占める割合が多くなる予定である。また、これまでの研究成果を、アメリカ学会、日本政治学会、比較政治学会で報告者ないし討論者として公表することになっており、国内出張費にも一定額を用いる予定である。警察庁の警察政策研究センターが実施する警察政策フォーラム等で日本の実務家らから意見を聴取する機会を確保するためにも、国内出張を実施する。 資料については、連邦政府の対策に関するものは比較的収集が進んでいるものの、州政府や地方政府に関するものは未だ十分とは言えないので、消耗図書や雑誌論文のコピーを含めて、次年度も収集する予定である。場合によっては、資料整理のために人員を雇う可能性もあるかもしれない。
|