アメリカが犯罪多発国家であることは、論を俟たない。2007年末の段階で、執行猶予や仮釈放中の者を含めると、アメリカ成人の31人に1人にあたる730万人が受刑状態にある。全世界人口にアメリカが占める割合は約5%だが、受刑者についてはその25%を占めている。その結果、かつては福祉国家に向けられていた政治的、財政的資源が、刑事司法の分野に向けられるようになっている。今日、一部の論者によって、アメリカは、ニューディールを基盤とする福祉国家から、犯罪への対応を主要任務とする、クライム・ディールを特徴とする「刑罰国家」へと変容したと指摘されている。 このようなアメリカの犯罪政策の在り方を理解する上では、連邦制との関連について考察することが不可欠である。なぜならば、犯罪をめぐっては都市部と農村部では全く異なった議論が展開されており、政治家に求められる対応も異なったものとなっているためである。犯罪が抽象的脅威に過ぎない農村部では、犯罪撲滅を目指す派手な対策が求められる一方、実際の犯罪問題に現実的に対処せねばならない都市部では、むしろ住民が被害にあわなくて済むような犯罪予防が求められるからである。 今日のアメリカでは、銃への対応、麻薬問題、そして、不法移民がもたらす治安の悪化が大きな問題としてしばしば論じられる。前年度までは、特に社会問題化して話題となっていた不法移民問題を中心に検討したが最終年度には銃と麻薬の問題に焦点を当てて研究を実施した。その成果は、2014年に刊行した『アメリカ政治―制度・文化・歴史』(三修社)で部分的に紹介した。それに加えて、移民問題についての単著、また、銃と麻薬についての単著をそれぞれ執筆することになっており、出版社と調整しつつ、2015年度中には公刊する予定である。
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