研究課題/領域番号 |
23730160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安田 佳代 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (70583730)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際連盟保健機関 / 国際連盟 / シンガポール伝染病情報局 / 世界保健機関(WHO) / ユニセフ |
研究概要 |
本申請者はこれまで、東アジアにおける国際衛生事業が同地域の国際関係チャンネルの一つとして有効に機能してきたことを、日本外交に焦点を当てて分析してきた。その結果、国際衛生協力を通じて東アジア諸国が機能的に国際協調を形成し、それが東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とする政府間協議枠組みの下地を築いたという仮説を持つに至った。本研究では、東アジア国際衛生事業の中心であった伝染病情報ネットワークの構築に焦点を当てて上記仮説を検証し、東アジアにおける国際協調枠組みとしての国際衛生事業の重要性を歴史的に明らかにすることを目的としている。 戦間期東アジア国際衛生事業は国際連盟保健機関極東支部シンガポール伝染病情報局を中心として展開していた。この情報局は東アジアの衛生改善に大きく寄与したが、戦況により、1942年に業務を停止していた。戦間期から戦後初期にかけて、当情報局がどのような変遷を辿ったのかを調べるため、平成23年8月に世界保健機関(WHO)アーカイブで史料調査を行った。その結果、当情報局が戦間期、一時的に業務を停止していたものの、関係諸国の強い要望により、戦後早期に活動を再開し、WHO西太平洋地域局(WPRO)の一部に組み込まれたこと、活動の再開ならびに再開後の活動には、イギリス政府ならびに旧イギリス領が深く関与していたこと、また、この情報局の活動には、正確な伝染病情報を求めて、多くの東アジア・東南アジア諸国が関与していたことが明らかになった。戦後初期東アジアにおける伝染病情報ネットワークの構築が、当該地域の国際秩序の構築とも深く関与していたことを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目的は、戦間期東アジアにおける国際衛生事業の、戦後への継承と発展を明らかにすることである。当初の予定では、戦間期東アジアにおける国際衛生事業の内、対中国技術協力の継承について、平成23年度に研究する予定であったが、ジュネーブでの史料調査の結果、シンガポール伝染病情報局に関する貴重な史料が見つかったため、平成23年度にはこの部分を明らかにすることに専念した。その結果、上記「研究実績」を見いだせたので、研究目標を達成する上で、おおむね、順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初、国際連盟保健機関(LNHO)による対中国技術協力とLNHOシンガポール伝染病情報局を中心とする伝染病情報業務の戦後への継承を個別に検討し、この二つの事業を軸に、戦後の東アジアにおいて機能的に国際協調が形成されていったことを検証していく予定であった。しかし、平成23年度における研究の結果、東南アジア・東アジアに位置するほぼすべての国が関与していたシンガポール伝染病情報局に専念する方が、当初の目標を達成する上では有効かつ効率的な研究手法であることが判明した。その過程は、東アジアにおける「衛生」なるものが歴史的に変容していく過程でもあったからだ。そのため、今後はシンガポール伝染病情報局を中心とする伝染病情報ネットワークの構築と国際関係の構築に東アジア・東南アジア関係諸国がどのように関与し、当該地域の戦後国際秩序の構築とどのように関わったのか、を歴史史料に依拠して明らかにしていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
LNHOシンガポール伝染病情報局について、関連の歴史史料を収集するため、シンガポール伝染病情報局が1942年に移管されたオーストラリア(National Archives of Australia / National Library of Australia, Canberra)、旧宗主国のイギリス(National Archives of the United Kingdom, London)、シンガポール(National Archives of Singapore / National Library Singapore, Singapore)で史料調査を行う。予算と時間の関係上、平成24年度に調査できない史料館については、次年度に調査を行う。
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