研究課題/領域番号 |
23730160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安田 佳代 東京大学, 東洋文化研究所, 助教 (70583730)
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キーワード | 国際連盟 / 国際連合 / 世界保健機関(WHO) / 国際連盟保健機関 |
研究概要 |
本研究の最終的な目標は、戦間期東アジアにおける国際保健事業の、戦後への継承を明らかにすることである。初年(平成23年)度はその点をシンガポール伝染病情報局に焦点を当てて検討した。平成24年度はさらに研究を進めることができた。 夏にジュネーブの国際連盟史料館で史料調査を行った結果、国際連合設立に大きな役割を果たした連合国、とりわけアメリカとイギリスが国際保健機関の設立、ならびにWHOの地域分権化に大きな影響を及ぼしてことが明らかになった。その詳細を検討するべく、秋にアメリカ公文書館でアメリカの外交史料を調査し、冬にはイギリスの公文書館で史料調査を行った。その結果、二つの事実を明らかにすることができた。第一は、WHO設立に際して、連合主要国の内部で立場の相違があったこと(WHO設立に積極的だったアメリカとイギリスと中国vs. 消極的だったフランスとソ連)、アメリカとイギリスの間にもWHOの活動の範囲や地域分権化を巡って対立があったこと、それは単に国際保健行政を巡る対立ではなく、戦後の国際秩序を巡る対立でもあったことが明らかとなった。 二点目は、イギリスをはじめとする旧帝国が1946年のWHO地域分権化体制確立に際して、旧植民地を温存する形で地域分権化を推進である。イギリスは旧植民地を多く有する東南アジアにおいて、地域的保健衛生事業を主導したい意向であり、こうしたイギリスの意向をめぐってアメリカやソ連など他の連合国と対立があった。これは、戦後の国際保健行政確立のプロセスが、植民地の解体という、新しい国際秩序確立に向けた模索と対立と密接に関わり合っていたことを示すものである。 このほか、連盟史料館での調査の結果、戦前の日本と国際連盟保健機関の栄養問題をめぐる協調関係を示す史料を入手し、その成果を論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標は、戦間期東アジアにおける国際保健事業の、戦後への継承を明らかにすることである。初年(平成23年)度はその点をシンガポール伝染病情報局に焦点を当てて検討し、そして平成24年度は、国際連合設立に関わった連合国の動向から検討していく手がかりを得た。これにより、単に戦前から戦後への国際保健事業の継承を明らかにするのみならず、戦後の国際秩序の構築という、より大きなテーマを、国際保健機関設立から検討していく研究に発展させたこととなり、その意味で、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
以上のとおり、計2年の研究の結果、戦間期東アジアにおける国際保健事業の、戦後への継承を明らかにするという、本研究の最終目的を達成するにあたっては、ただ単に、WHOの設立を歴史的な始点から明らかにするのみならず、国際連合の設立ならびに、その設立に携わった主要連合国の動向を交えつつ、より巨視的な視野で研究を進めていくこととなった。平成25年度は、10月に二度の国際学会での報告を控え、また、現在執筆中の論文の完成を目指すことで、研究をさらに進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
イギリスのThe National Archives(TNA)とジュネーブの連盟史料館、余裕があれば、アメリカの公文書館National Archives at College Parkで研究を進めていく上で必要な史料調査を行う。また、平成25年度は出版を目的とした国際学会での報告を二つ控えているため、論文の英文校正費用に使用予定である。
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