研究課題/領域番号 |
23730161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 真紀子 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部, 特任研究員 (40422274)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 食品安全 / 科学と政治 / 制度設計 / 国際機関間相互協力・連携 / レジーム間相互関係 / コーデックス / WTO / SPS協定 |
研究概要 |
本研究の目的は、国際機関間の相互協力・連携を確保する上での課題を、食品衛生分野の国際機関間のインターフェースにある問題を事例に実証的に解明することである。その際、国際機関内・間の利害関係の分析に加えて、制度設計、とりわけ「科学」と「科学以外の要素(Other Legitimate Factors、OLF)の位置づけに着目して分析をすることとしている。平成23年度は、上記の問題を分析する上での具体的な事例として、科学とOLFが交錯する問題(即ち、科学的安全性だけでなく、科学以外の社会的・経済的・文化的・倫理的要因が問題となる問題)で、かつ、複数の国際機関にまたがる(またがりうる)イシューの特定を行った。具体的には、遺伝子組換え(GM)食品、治療目的以外の動物用医薬品(成長ホルモン、牛の乳量を増やすBST、肉の赤みを増すラクトパミン等)の事例である。これらについて、関連する国際機関の特定、いかなる点がインターフェースとなっているのか、国際機関内・間の連携・相互作用の実態、加盟国等のポジション、科学的議論が果たした役割・位置づけ等に関して、情報収集と事実関係の整理を行った。その結果、GM食品や成長ホルモン牛の問題はWTOのSPS協定の視点からの研究があるが、それがその参照機関であるコーデックス、またそのリスク評価機関であるFAO/WHO合同専門家会議等との間にどのような影響を持ったのか、関連するこれらの組織間での関係性に何をもたらしたのか、類似の問題群(BSTやラクトパミン)の対応においてアクター間の行動にどのような影響を与えているのか、さらには国際機関から生み出される合意の意義や有効性にいかなる課題をもたらしているのか、といった点については十分な研究がないことが明らかとなった。このため、来年度以降はこうした点に着目して分析を重ねていきたいと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度については、事例等に関する基本的な事実関係に関する情報収集とその整理、および理論部分に関する基本文献の収集を計画の主要な要素としていたので、おおむね順調に進展していると考える。実証的な研究をする上での事例調査については、当初想定していた以上の成果を上げることができた。コーデックスの部会に、思いがけずテクニカルアドバイザーとして参加することが出来たので、会議開催期間中に、主要国の政府代表団の政策担当者に直接ヒアリングを実施することが可能であった。また、国内においても、行政担当者へのヒアリング、コーデックス関係者へのヒアリングを実施することができた。国際獣疫事務局(OIE)の担当者も来日の機会を捉えてヒアリングをすることができた。OIEについては、コーデックスやFAO/WHOに比して制度設計に関する部分が公の文書では分かりにくい部分が多いため、直接関係者にヒアリングをすることが肝要であった。他方で、理論的な部分については、基本的な文献調査はできたものの、レジーム論の最新の動向や科学と政治に関する既存研究をはじめ、さらに収集して、整理する必要がある。また、特に上記の遺伝子組み換えや動物用医薬品の具体的事例の調査においては、表面的な政治上のやり取りに関する分析だけではなく、科学的論争の中身についても十分理解できるようさらに調査をする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策については、平成23年度に行った事例調査等を踏まえ、国際機関のインターフェースにある問題の課題について分析を行う。国際機関間の連携や相互作用の促進阻害要因についての検討、そこにおける科学とOLFの位置づけといった制度的要因がもつ影響、さらに各々のマンデートや規範の相互関係(対立的なのか整合的なのか)、また、こうした検討を既存のレジーム論や制度論の中でどのように位置づけられるのか、あるいは新しい知見が提供できるのかについて検討を行う。前年度に引き続き文献調査と情報収集行うことに加えて、海外調査により、実際に関係する国際機関を訪問して当事者へのインタビューを実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請段階より2年目に海外調査を予定していたことから、申請時の研究費は2年目の配分を多くしていたが、実際の配分は1年目2年目とも同額であったことから、海外調査が十分に行えるよう、1年目の予算を2年目に一部残すこととした。また、当初研究協力者との国内打ち合わせで出張を考えていたが、今年度は東京への上京の機会を捉えて打ち合わせをすることが出来たため、その分の費用が浮く形となった。次年度は、海外調査、文献調査を中心として研究費を使用する予定である。その他、研究協力者との打ち合わせのための国内出張、専門家からの知識の提供や研究補助(資料整理等)等でも研究費を利用する予定である。
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