本研究は以下の三点の解明を目指して行われた。(A)日本政府の中ソ関係に関する情報収集体制の成立過程。(B)中ソ対立に関する情報が日本政府の政策形成にもたらした影響。(C)日中国交正常化に至る両国関係における「ソ連要因」の影響の解明。 具体的な調査としては、日本外務省の関連史料の調査、関係者へのインタビュー、さらに中華人民共和国外交部文書の調査を実施した。 本研究の総合的な成果と意義として以下の三点が指摘できる。第一に、日中関係における「ソ連要因」という観点から見直すことで、しばしば米中関係の従属変数と見なされがちであった日中国交正常化交渉を異なる角度から描き出すことが可能になった。第二に、限定的ではあるが、外務省内の専門家の認識を明らかにすることを通じて、従来、軍事戦略的思考の欠如が強調されてきた日本外交の共産主義諸国に対する「戦略性」を解明することができた。第三に、中ソ関係への対応という戦略的観点から日本外交を捉え直すことで、従来、日米関係を中心とする二国間関係が中心であった戦後日本外交史を、広くアジア冷戦史の文脈において位置付けることを可能にした。 以上の三点の成果を盛り込み、戦後日中関係を通史的にまとめた成果として井上正也「日中関係の形成」(波多野澄雄編『日本の外交 第2巻 外交史 戦後編』岩波書店、2013年)が挙げられる。
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