最終年度においては,申請した計画のとおり,国内外における文献調査と海外関係者(中国)へのインタビューを実施したうえで,プロジェクトをとりまとめ,論文を執筆して以下の通り国内外の学会にて報告した。 研究期間を通じ,得られた主要な知見は次のとおりである。バーゼル銀行監督委員会やG20など法的拘束力を欠き,規範,慣行,不文律に依拠する程度の高い非公式な金融ガバナンスは,階層構造,力の格差を内包するということである。この階層構造においては新興国の台頭が著しいとされる昨今にあっても,米欧諸国が依然上位に位置し,中国,日本などは下位に位置し続けている。 米欧諸国の優位性は,非公式な規範的ルールを作成するうえで必要になる経済学,社会科学的水準の高さや自らの規範を拡散するうえで活用可能な国際組織を擁していることに由来する。 本研究の独自性は以下の2点にある。第1に国際政治学における構成主義研究においては,通常,規範に依拠した非公式なガバナンスの構築は,国家間の相互利益や国際公益の増進とに資すると想定される。それに対し,本研究は規範の伝播,関係国の有する権力資源の差に応じた非対称的な関係を維持,再生産する要因にもなりうることを明らかにした。第2にグローバル金融危機後は,米欧経済モデルの正統性に疑義が付される一方,中国をはじめとする新興国の著しい台頭が主張されることが多い。それに対し,本研究は非公式な金融ガバナンスに着目すれば,米欧諸国の優位性は損なわれていないことを明らかにした。
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