研究課題/領域番号 |
23730170
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
元田 結花 学習院大学, 法学部, 教授 (20292807)
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キーワード | 開発援助 / ガバナンス / HIV/AIDS / PRSP / ウガンダ / 権力分析 / 多中心的ガバナンス / 政策空間 |
研究概要 |
平成24年度は、PRSP体制とHIV/AIDS対策という二つの援助スキームが交錯する現状への理解に向けて、現在までに得られた知見と、研究上の欠缺について整理した。具体的には、第一に、両スキームともに、被援助国に新自由主義的秩序を移植する具体的現れであることを確認した。第二に、両スキームにおいて、①無責任の体系が成立しており、②援助を通じて国家の脱政治化が進む中で、③被援助国側の行為主体性は、懐柔・取り込みを通じて阻害される一方で、参加を通じて強化されるという両面を持つことを確認した。しかし、第三に、これら三点は先行研究に依拠する静態的な理解にとどまり、かつ、両スキームの交錯状況についての研究も極めて少ないことから、現地におけるダイナミズムを掌握できていないことを明らかにした。次いで、この学問上の欠缺を埋めるためのアプローチと方法論の検討に移り、ウガンダを事例として、両スキームが交錯する政策空間における権力関係を分析する必要性を提示した。以上の成果は、Motoda, Yuka (2012) ‘Governance of Development in African Countries under the Plural Aid Schemes: What is Emerging at the Confluence of the PRSP Approaches and HIV/AIDS Policies?’, University of Tokyo Journal of Law and Politics, Vol. 9, pp. 143-161. にまとめた。 その後、まずはウガンダのHIV/AIDS対策を事例として、多中心的ガバナンスの視座から、行為主体間とそれをとりまく全体の構造に見出せる権力作用の多面的な把握に向けて、各種権力概念の検討と分析枠組みの構築に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、関連分野における本研究の位置づけがより明確になるとともに、理論面での分析枠組みの精緻化が進んだ。特に、開発活動に関与する行為主体が加速度的に増大していることから、国際機関・先進国の援助機関・途上国の政府・市民社会団体(国際的なものと途上国内部のもの双方)・現地の人々、を主たる分析対象としてきた従来の開発援助研究では現状を把握しきれないと判断し、多中心的ガバナンスの枠組みで捉え直す方針の下、先行研究の限界を乗り越えることを目指した。同時に、多中心的ガバナンスの議論の多くが機能主義に依拠しており、権力関係について十分に配慮していないことから、従来の開発援助研究のうち、ドナーと被援助国側の行為主体との間の権力関係について多面的に分析しているものの知見を活用することを試みた。その結果、特に参加型開発の研究において有用とされているPower Cube(権力立方体)の考え方を出発点として、多中心的ガバナンスにおける権力分析に向けて必要とされる権力概念の検討作業を進めることとなった。 このような、概念・分析枠組みについての作業と並行して、ウガンダにおける現地調査の準備も進展した。平成24年9月より、英国ウォーリック大学を拠点として長期研修の機会を得ており、人的ネットワークの拡大に努めるとともに、日本では入手しにくい資料の収集も進めた。特に、同大学の政治・国際学部のスタッフとの交流や、各種研究会・ワークショップへの参加を通じて、研究全体のデザインから、具体的な概念の構築、フィールド・ワークのロジスティック面に至るまで、様々なインプットを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年9月・10月と、平成26年1月・2月の二回に分けて、現地でしか入手できない資料の調達とインタビューを行うために、ウガンダで現地調査を実施する。そのために、平成25年8月までに、権力概念の一層の精緻化を進めるとともに、ウガンダにおけるPRSPとHIV/AIDS対策についての情報をアップデートし、半構造化インタビューの準備を進める。インタビュー対象者を選出する際には、インタビューを受けてもらえるかどうか、相手の意向も十分に確認する。特に、HIV/AIDSという、プライバシーに関わり、社会的差別を惹起しかねない問題を扱うことから、インタビュー対象者の意向を十全に尊重し、いかなる社会的圧力もかからないように注意しなければならない。同時に、宿泊施設や交通手段などのロジスティック面での手配も進めておく。 現地調査を二回に分けるのは、調査に柔軟性を持たせ、予期せぬ発見や出来事に備えるためである。特に、ウガンダのような途上国においては、当初の計画が行き詰まった際に備えて代案を用意するとともに、必要に応じて軌道修正を試みることが不可欠となる。インタビューの記録は直ちにノートに整理しておく。それぞれの回の調査が終了した後は、全体の調査結果をまとめ、分析枠組み・依拠する概念の妥当性を確認し、分析内容を吟味していく。第一回目の現地調査は首都カンパラで行い、援助機関、ウガンダ政府の関係省庁、国際的なNGO、国内の大規模NGO、製薬会社を対象として資料収集・インタビュー調査を行う。同時に、第二回目の調査対象となる地方を選定し、通訳を手配する。第二回目の調査は第一回目の調査で選定した地方に赴き、国家エイズ委員会の地方委員会、PRSPの具体的政策を担当する地方政府の関連部局、国内の市民社会団体、可能であれば、エイズとともに生きる人々を対象に調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の二回の現地調査の結果の検討を進め、さらなる情報の入手が必要であると判断された場合は、平成26年5月・6月に最後の現地調査を行う。必要となる情報の内容に応じて、カンパラ・地方・援助機関の本部(その多くは、先進国の大都市にある)を訪れることとなる。 平成26年7月以降は、最大三回にわたる調査結果を踏まえて、論文の執筆を進める。同年8月までには、序論(問題設定)、第二章(理論的分析枠組み)、第三章(ウガンダにおけるPRSP・HIV/AIDS対策についての背景および現状整理)の草稿を準備する。同年9月から平成26年1月までに、権力分析を中心とした事例研究の章の草稿を用意し、平成26年2月には結論の草稿をとりまとめることを目指す。同年3月に全体の見直しを行い、論旨の整合性を図る。 論文執筆と並行して、研究会やワークショップでの報告を通じて、多様な方面からのフィードバックを得られるようにする。特に、平成26年8月までは、英国ウォーリック大学を拠点としているので、同大学が提供する内外の研究ネットワークを活用して、国際的な学術交流を進めていく。
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