研究課題/領域番号 |
23730170
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
元田 結花 学習院大学, 法学部, 教授 (20292807)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 開発援助 / ガバナンス / HIV/AIDS / 権力分析 / 多中心的ガバナンス / 政策空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、当初、PRSP体制とHIV/AIDS対策を対象として、複数の援助スキームが被援助国のガバナンスに及ぼす影響を分析することを目指していた。しかし、両スキームが交錯する「政策空間」の把握が予想以上に困難であることから、HIV/AIDS対策の分析を先行させる方針を維持し、今年度は、前年度にウガンダで行った2回のインタビュー調査の結果を分析することに力点を置いた。 具体的には、これまでの研究の成果を踏まえ、HIV/AIDS対策で展開しているガバナンスを「多中心的ガバナンス」ととらえ、①その特徴、②それが政策運営に与える利点と課題、③そこにおける権力作用、の三点を明らかにしていった。問題なく分析概念に当てはめられる場合が多いものの、①については、必ずしも個別の行為主体が規制の担い手とは限らない場合をどう扱うのかという課題や、規制、権能、管轄権、主権と権力といった関連する概念をより厳密に扱わなければ、③との関係で不必要な重複を招くという問題が明らかになった。これは、従来の「多中心的ガバナンス」概念の精緻化の必要性を示すことにもつながった。③についてはまた、当初依拠する予定であった「権力立方体」概念では、多元的な政策過程のそこかしこで作用している権力の形態・次元・空間の三点を有機的に結びつけて分析することは難しいことが分かり、代わりに各種権力形態と権力空間を別個に、各次元で見ていくことにした。これは同時に、分析概念としての権力立方体概念の限界を指摘することにもつながった。 以上と並行して、文献調査を中心にPRSP体制の動向を追っていったが、ウガンダも含め多くの国でいわば「ポスト・PRSP体制」への移行が近年急速に進んでいることが明らかになった。今後、PRSP体制を本研究の分析枠組に取り込むことは非常に困難になることから、以後、HIV/AIDS対策に対象を絞ることにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は当初、PRSP体制とHIV/AIDS対策を分析対象としていたが、予想以上に作業量が多いことが判明し、HIV/AIDS対策の分析を先行させてきた。しかし、本研究が開始された頃から、ウガンダを含め多くの途上国において「ポスト・PRSP体制」への移行が進み始め、その動きも加速していることが明らかになった。このような政策の急速な転換は、「現在展開している政策」についてインタビューを用いて調査する本研究の遂行が困難になることを意味する。そこで、PRSP体制については、完全に本研究の対象外とすることにせざるを得なくなった。 インタビュー調査を元にしたHIV/AIDS対策を対象とした分析では、進展が見られた。第一に、主体、規制、権能、管轄権、主権といった概念をより厳密に用いることで「多中心ガバナンス」概念の精緻化につながった。第二に、権力形態と権力空間を別個に、各次元に分けて見ていくアプローチは、「権力立方体」概念の限界を指摘し、それをオペレーショナルなものにするための代替案の一つを示すことをも意味する。これらを踏まえて、研究の目的と方法を扱う序論(第1章)と理論的枠組を扱う章(第2章)の第二稿の執筆も進んでいる。 その一方で、研究の遅れも認められる。まず、2回のインタビュー調査で得られた情報では不十分な点が出てきた。例えば、「多中心ガバナンス」概念の精緻化については、もう少し具体例を集める必要がある。権力関係分析においても、グローバルレベルの「政策空間」を「現地」との関係でどう位置づけるのかが把握しにくい。そのため、10日間ほどの日程でフォローアップ調査を行おうとしたが、相手方との日程調整の難しさから今年度の実施をあきらめ、来年度に行うことにした。また、平成26年9月より研究代表者が在外研究から戻り、それまでよりも本研究に費やせる時間が減ったことも、研究の遅れにつながった。
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今後の研究の推進方策 |
現段階では、第1章(研究の目的と方法)・第2章(理論的枠組)の第二稿と、第3章(ウガンダのHIV/AIDS対策の概要)の第一稿の執筆が進んでいる。ウガンダを対象とした、多中心的ガバナンスとしてのHIV/AIDS対策についての章は、その特徴(第4章)、政策運営にもたらす利点と課題(第5章)、権力作用の多面的分析(第6章)を対象とするものであり、インタビュー調査から得られた情報を元にした詳細なレジュメの作成が進んでいる。 以上を踏まえて、平成27年度の前半には、第4章から第6章までのレジュメを完成させ、それらをもとに、第一稿を用意する。この作業は、フォローアップのインタビュー調査において確認すべき点を整理することにもつながる。また、これらの事例研究の章を整理することは、第1章・第2章の第二稿および第3章の第一稿の執筆作業ともかかわってくるので、必要に応じて相互に照合していく。 平成27年度の後半には、第7章(結論)の第一稿の執筆とともに、第1章から第6章までの最終稿の準備を進める。各種研究会・ワークショップにて報告し、理論的枠組みと事例分析の妥当性を検証する機会として活用する。事例分析に必要な情報を補うためにはさらに、フォローアップのインタビュー調査をウガンダで10日間程度を目安に実施する。時期は平成27年11月上旬を予定しているが、相手方の都合次第では、平成27年8月もしくは平成28年2月下旬から3月になることも考えられる。特に後者の場合は、インタビュー前にできるだけ各章の執筆を進め、インタビュー後に迅速にその成果が原稿に反映されるようにする。 以上の作業を経て、平成28年3月末までに、完成稿を用意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、平成25年度にウガンダにおいて2回に亘って実施した現地調査のフォローアップのために、10日間ほどの日程でインタビューを中心に3回目の現地調査を行う予定であった。短期間の滞在ではインタビュー候補者との日程調整が重要となるものの、選択肢が少ないことから相手方と研究代表者との予定の折り合いがつかなかった。平成27年度での実施にした方が望ましいという候補者も多かったことから、そちらの意向を優先し、今年度中の実施を取りやめたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ウガンダで過去2回に亘る現地調査で行ったインタビューのフォローアップを、10日間程度の日程で行う際の費用に、次年度使用額を充当したい。候補となる期間は、平成27年8月、同11月上旬、平成28年2月下旬、同3月であり、この中で、最大数のインタビュー候補者の予定に合致する期間に行う予定である。
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