本研究は、HIV/AIDS対策のあり方を「多中心的ガバナンス」と捉え、ウガンダを事例に、①その特徴、②それが政策運営に与える利点と課題、③そこにおける権力作用、を明らかにすることに主眼を置いている。今年度は、ウガンダにおける展開をフォローアップしながら、①については、「多中心的ガバナンス」の特徴を、規制主体とその中心性、関係セクターの数、展開する次元、管轄権の明確性、権威の階層性、主権の度合い、ダイナミズムの度合いの7点に着目する形でより精緻化して捉え、②については、多元的行為主体による協力・協調を通じたコストの削減や経験・情報の共有という政策運営上の利点よりも、活動の重複や複雑な利害対立の調整などの問題点の方がむしろ大きくなりうることを実例に則して論じた。しかし、③については、多面的かつ複雑な権力作用の抽出・整理を行ったものの、そこから何を見出すかのについては、明確な結論を得るまでには至らなかった。 同時に、当該事例を改めてより広範な文脈に位置づけるために、開発援助ガバナンスにおいては、特にミレニアム開発目標(MDGs)から持続可能な開発目標(SDGs)への移行、ポスト貧困削減戦略文書(PRSP)体制への移行という近年の動向が、ウガンダにおけるHIV/AIDS対策に与える影響を検討した。一方、HIV/AIDS対策を一構成要素とするグローバル・ヘルス・ガバナンスの形で整理される議論との関係では、基金面で影響力の大きいアメリカの動向や、特に治療薬の供給面において、国際機関における官民連携の動きや、世界貿易機関体制がもたらす最新の影響についても、分析に追加した。 このように作業は進展したが、権力作用分析の部分の作業に区切りをつけられず、結論とあわせて今後の課題とせざるを得なかったことから、今年度中に目標としていた20万字程度のまとまった研究として公表することはできなかった。
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