研究課題/領域番号 |
23730183
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
及川 浩希 東北大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90468728)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 企業レベルのボラティリティ / 景気循環 / 倒産費用 |
研究概要 |
日本の企業レベルのボラティリティを、日経NEEDSから得られた売上高成長率の変動から計測したところ、過去30年以上にわたり、日本のGDPが描く中期的な波(medium-term cycle)に対して反循環的(counter-cyclical)に相関していることが観察された。これは、順循環的(pro-cyclical)な企業レベルのボラティリティが報告されているアメリカと、際立って異なる結果である。平成23年度は、このデータ検証を行うとともに、日米のいかなる差がこのような逆転現象を生むのかを理論的に追及した。 企業レベルのボラティリティは、個々の企業ごとに計測したうえでの平均値と定義されるので、どのような企業が市場に参入しているかに影響を受ける。したがって、中期的な景気の波に応じた企業の参入・退出のパターンが異なれば、上記のような逆転現象は起こりうる。本プロジェクトでは、企業が退出あるいは倒産のリスクをどう見積もっているかによって、景気変動に応じた参入・退出のパターンが逆転し、上記の日米比較に対応した結果を理論的に導けることを示した。ここで構築したモデルは、アメリカにおいて株価収益率で計測したボラティリティが、(本プロジェクトでの定義と同じ)売上高で計測したそれと景気に対して異なる相関関係を持つこととも整合的であることが確認されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の研究計画は、概ね予定通りに進行している。本プロジェクトは、日本における企業レベルのボラティリティと景気循環の関係を調べ、先行研究のあるアメリカの結果と比較し、共通点・相違点を理論的に検証するというものであった。現在までに、観察結果と整合的な理論モデルは示せているが、その理論モデルで扱っている要素がどの程度において重要な決定要因であるのかは明確ではない。その意味で、プロジェクト全体としてはちょうど前半を折り返したところということができるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、これまでの結果を深めるとともに、新たに浮上してきた問題に取り組みたい。昨年度までの成果は、主として静学的な分析を扱っており、動学的な最適化を行う企業の意思決定は扱えていなかった。第一に行うべき研究は、倒産費用の構造がマクロ経済にいかなる影響を与えるかを動学的一般均衡の枠組みで分析することである。 また同時に、これまで扱ってきたモデルでは、個々の企業のボラティティ自体は変化せずに、企業グループの構成が変わることによって、平均化された企業レベルのボラティリティの振る舞いを説明していた。しかし現実的には個々の企業のボラティティも時間を通じて変化しており、それが平均化された指標を動かす側面も無視できない。つまり、参入・退出する企業のタイプと、継続的に営業している企業の行動変化の、両面を考慮に入れたモデルの構築ということになる。これらの作業は、23年度の研究を通じて得られた知見を、広い意味での標準的なマクロ経済モデルに統合する側面を含んでおり、他の研究と比較検討のしやすい形での理論分析・政策分析を進めていくことを意味する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、主として成果報告及び情報取集のための旅費、論文の英語校正、図書等の資料購入、また、データ分析用のソフトウェアの保守・購入に充てる。
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